哲学者がAI失業論を喝破「AIではなく経営者が雇用を奪う」

多くの人が誤解していること
岡本 裕一朗 プロフィール

雇用を奪うのは人工知能ではなく経営者

「人工知能が仕事を奪う」と言われますが、果たしてこの表現は適切なのでしょうか。

たしかに、今まで窓口業務を行なっていた銀行員が、人工知能を導入することで、リストラされたら、「人工知能が仕事を奪った」ように見えるでしょう。

しかし、注意したいのは、「人工知能が仕事を奪った」ように見えるのは、あくまで結果論だということです。

 

よく考えてみてください。

そもそも、人工知能を導入したのは、人間(経営者)の側の判断によります。

人間がコストとベネフィットを冷静に計算したうえで、人間(従業員)に仕事をさせるよりも、人工知能の方が利益を見込めると判断したからです。人間を雇った方が利益を生むならば、誰も好んで人工知能の導入などしないでしょう。

つまり、人工知能を導入・維持する際の費用、それによって生み出される利益を考え、従来の従業員の費用と利益と比較したうえで、人工知能を導入するかどうか検討するわけです。

人工知能が、あたかもひとりでに人間の仕事を奪うかのようなことは起こりません。

基本は、人間(経営側)と人間(従業員)の利害関係の中で、人工知能が導入されるわけです。

こんなことはあらためて言うまでもないことですが、「人工知能が仕事を奪う」という議論を見ていると、どうしても強調したくなる点です。

たしかに表面上は、人工知能を導入することによって、従業員の職が奪われるのですから、「人工知能が仕事を奪う」と言いたくなるかもしれません。

〔PHOTO〕iStock

しかし、その表現は適切ではありません。そこで、次のような思考実験を作ってみました。

【問題】
人工知能以上に優秀でしかも費用が安い従業員 ある会社で、人工知能を導入するべきか、経営会議で議題となった。
賛成派の意見として、仕事内容からみて、今までの従業員が行なってきた業務を、より安価でこなし、しかも導入費と維持費を考えても、経済効率は人工知能が上である、ということになった。
しかし、ここで有力な反対意見が出た。それによると、もっと安い給料で、海外から優秀な人材を採用でき、しかもその能力たるや、人工知能以上であることがわかったのだ。
このとき、次のどれを選択すべきか?

①今までの従業員、②人工知能、③人工知能以上の能力をもつ新たな従業員

答えは言うまでもないでしょう。

人工知能以上の能力を発揮でき、しかも人件費が人工知能よりも安価であれば、そうした新たな従業員を雇うのが経済効率性では正しい判断と言えます(ただ、そうした人材がいるかどうかは問題ですが)。

ここからわかるのは、根本的な対立は「人間 vs 人工知能」ではないことです。

人工知能の導入は、経営側の利益によって決定されるわけで、人工知能以上に優秀で、しかも人件費が安いならば、そうした人間が雇われるだけです。従来の労働市場を駆逐するのは、なにも人工知能だけとはかぎりません。