「人工知能が進化するにつれて、人間の仕事が奪われるのではないか」
こんな不安の声を、しばしば耳にします。
2013年にオックスフォード大学の研究者たちが、注目すべきレポートを提出しました。それによると、「将来のコンピュータ化によって、(中略)アメリカの全雇用のおよそ47%にきわめて高い(失業の)リスクがある」とされたのです。
この予測を聞きつけ、日本でも「人工知能が人間の仕事を奪う!」と扇動されたように見えます。ここでは、この主張を「人工知能失業論」と呼んでおくことにしましょう。
こうした主張それ自体は、2013年に初めて登場したわけではありません。
マーティン・フォードの2009年の書物は、2015年に日本で翻訳されたとき、『テクノロジーが雇用の75%を奪う』というタイトルになりました。
デジタルテクノロジーによって、従来型の職種が整理されていくことは、社会的なコンセンサスになっていると言えます。
しかし、ここで問題なのは、「人工知能失業論」が、あたかも人類の大部分が失業し、生活できなくなるかのように語っていることです。しかも「人工知能」が「人間」を失業に追い込む、といった対立図式を提示するのです。
はたして、このような議論はどこまで信用できるのでしょうか。
75%の従業員が消えたなら まず、「人工知能失業論」の状況認識から始めましょう。ここでは「失業率75%」を唱えるフォードの記述を確認しておきます。
彼によれば、「現在人間が携わる仕事は、ある日、機械によるオートメーション化でそのかなりの部分が排除される」とされ、二つの理由が指摘されています。
①工場や小売店、事務所や倉庫など労働者によって維持されている定型業務が、機械やロボットによってどんどん奪われていく。 ②機械によるセルフサービスへの移行という現在のトレンドが、今後ますます加速されていく。
こうした流れは、とくに異を唱えるほどではありません。じっさい、人間の定型業務が機械やロボットに代わったり、セルフサービスが加速化されたりしているのは、私たちも日々目撃しています。
ただし、それが75%の失業につながるかどうかは疑問です。この数字の根拠じたい問題ですが、今はそれを問いません。
むしろ、根本的な問題は、75%の失業者が排出される社会が、そもそも社会として成り立つのか、という疑問です。
それを考えるために、「失業率75%の社会」を思考実験で想定してみましょう。
生産、流通、消費といった経済活動の大半の部門で、人工知能やロボットが導入され、従業員がほとんど不要になってしまった。
従来働いていた人々は解雇され、失業することになる。統計を取ってみると、労働者のなんと75%の人々が失業者となり、日々の仕事がなくなってしまった。
このような社会で、あなたは生活したいと思いますか。
それとも、今まで通り、人間が仕事に従事する社会を望みますか。