なぜ逃げない? 災害大国の日本が陥りやすい「正常性バイアス」問題

インフラ未発達でもキューバは死者ゼロ
木原 洋美 プロフィール

避難が無駄だったと思わせない仕組みを

東京都の総務局で長年に渡り、防災に取り組んできた森永健二氏は、「正常性バイアス」対策の難しさを痛感した体験を振り返る。

「東日本大震災の時、私は都庁内にいました。我々は災害対策の専門家です。ところが、地震が起きた時に、机の下にもぐって身を守る行動をとった人は、周りに1人もいませんでした。

都庁はご存知のように超高層ビルなので、長周期地震動によるゆっくりとした大きな揺れが長時間続き、天井材が落ちた部屋もありました。幸い、けが人はいませんでしたが、とっさの時に適切な行動がとれない、正常性バイアスの怖さを実感しましたね。

正常性バイアスを外すには、訓練が重要です。それも現実に則した具体的なルールを決め、訓練を行っておくこと。

たとえばこれも東日本大震災の時ですが、地震がおさまった後に外を見ていたら、近隣のビルから近くの公園へ、ヘルメットをかぶって集団で避難する人たちがいました。

驚きました。火災なら外に逃げるのは正解ですが、地震の時は、ビルのなかにいるのが一番安全です。外へ出たら、上から何が降って来るかわかりませんからね。都庁では、火災訓練と地震訓練を分けて実施しています」

狭くて汚くて暗い避難所では、逃げたくならない photo by GettyImages

映画館やホテルを避難所に

では、「避難したくなる避難所」は、どういうものが考えられるだろうか。元吉教授は提案する。

「避難コストの最小化のためには、避難所を行きたくなる場所にすることはとても重要です。日本の避難所は不快で長居したくない場所です。要配慮者がいる場合などは、避難させるのも大変です。自宅にいた方が一見心地がいいし安心なのでみんな移動しません。

まずは体育館に避難するという従来の考え方をあらためる必要があると思います。安全な地域にある親戚の家、公民館やコミュニティーセンターなどの冷暖房のある施設、居住環境の整った場所やホテルなど宿泊施設も避難先にすべきです。

また、実際に行動経験がない場合に避難することは難しい。台風接近のたびに避難しても『無駄だった』と考えないような工夫が必要です。

たとえば、台風が近づいたらお孫さんと過ごす日にするとか、ハザードマップで危険な地域に住む人は、ホテルに割安で宿泊できるとか、映画館で無料で映画を見て一夜を過ごすことができるようにするとか、そのくらいの発想の転換が必要なのではないでしょうか。

現状では、現実的ではないですが……。台風が接近したら必ずそれを行うという風に習慣化しないかぎり長続きしませんし、本当に災害が起きたときに命を守ることができません」

 

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