なぜ逃げない? 災害大国の日本が陥りやすい「正常性バイアス」問題

インフラ未発達でもキューバは死者ゼロ
木原 洋美 プロフィール

情報の精度を高めても、人の意識は変わらない

たとえば東京都のハザードマップを見ると、港区辺りは危険区域が意外なほど多いが、住民もオフィスワーカーも「こんな都会の真ん中で、水害や土砂災害など起こるはずがない」と安心しきっている。心配しているのは、地震くらいだろう。

こういう都市住民を含め、防災が苦手な人たちの行動を変えるには、「正常性バイアス」をチェンジさせようとするだけでは追いつかない。

有効な対策のヒントを、横浜市立大学の武部貴則教授が提唱する「広告医学」にみつけた。

広告医学とは、「デザインやコピーライティングなどといった、わかりやすく、人々に影響を与える広告的視点を取り入れることで、生活する人々の行動変容(Behavior Change)を実現する『コミュニケーション』を研究し、生活者の目線からさまざまな医療問題の解決を目指す体系のことを示す」。
(「広告医学」ホームページより)

具体的には、医者がいくら指導しても行動を変えない、生活習慣病予備軍のような人たちに、本人たちが意識しないうちに健康にいい行動をとらせたり、健診に行くよう仕向けたりする方法を探ることだ。

 

武部教授のグループは、「上りたくなる階段」「運動したくなるTシャツ」「待ち時間が短く感じる病院の待合室」などを考案し、実証実験を進めている。

生活習慣病予備軍に向けて医師や行政が行う「健康を維持するために運動しましょう」という呼びかけは、「命を守るために早めに避難しましょう」という防災のための呼びかけとそっくりだ。

もし防災意識の低い人にも、情報で避難させようとするのではなく、「避難したくなる避難所」ができたら、災害による死傷者を大幅に減らせるのではないだろうか。

災害心理に詳しい、関西大学社会安全学部の元吉忠寛教授は次のように語る。

「防災が苦手な人たちの行動を、社会を変えずに、変えるのはとても難しいと思います。人は、恐怖などの強い感情が引き起こされる『直接的な危機(目の前の危機)』から身を守るようにはできていますが、強い感情が湧いてこない『間接的な情報(予測的な情報)』に反応して身を守るようにはできていないからです。

毎日の生活を送る中で、目の前に危険がなければ、普段通りに過ごしたいと思うので、後回しにしても当面困らないことについては、適切な行動を取ることは難しい。

ですので、一般に「正常性バイアス」と呼ばれているものはバイアスではなく、人間として当然の反応だということを理解する必要があります。

情報を高度化・精緻化して人を避難させようとしている、現在の防災対策の方向に対して私は否定的です

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