なぜ逃げない? 災害大国の日本が陥りやすい「正常性バイアス」問題

インフラ未発達でもキューバは死者ゼロ
木原 洋美 プロフィール

堤防が高くなるほど、正常性バイアスは強固に

「正常性バイアス」とは、水害、地震、津波、火災などの危険が目の前に迫っていても、日常生活の延長線上の出来事だと判断し、「自分は大丈夫」「まだ安全」などと思い込んでしまう人間の心理的な傾向を指す。

被害が大きかった真備町では、「ダムがあるから安全と油断して逃げ遅れた」という声が多く聞かれた。また東日本大震災では、「チリ地震津波のあとにできた堤防があるから大丈夫」と思い込んでいた高齢者が多数犠牲になった。

「前例のない」災害に対して、前例を基準にして作られた設備は役に立たない。むしろ、そのせいで正常性バイアスが補強され、逃げ遅れにつながったのである。

現在、三陸沿岸部では、東日本大震災並みの津波がきても大丈夫なように、十数mの巨大堤防の建築が進んでいるし、西日本豪雨の被災地では、今後一層大規模なダムや堤防が建設されるだろう。

だが、それらのインフラは強固になればなるほど、高くなればなるほど、住民の正常性バイアスをガチガチに固めてしまうのではないだろうか。

 

インフラ未発達でもハリケーンの死者がゼロ

参考として、2016年にカリブ海地域に甚大な被害をもたらした大型ハリケーン「マシュー」でのキューバの事例を紹介したい。

大型ハリケーン「マシュー」によって、ハイチでは842人、アメリカ・フロリダ州では18人の生命が失われた。ところがキューバでは、農業や食糧生産が大打撃を受け、歴史的な町並みで知られるバラコアでは住宅の90%が崩壊という凄まじい被害を受けながらも、死者はゼロだった。

いったいなぜか。それは政府の呼びかけによって100万人もの住民が事前避難していたからだ。

キューバの人たちには、「正常性バイアス」はないのだろうか。

恐らく、日本人よりは、ないに違いない。というのも、キューバには、ダムや防波堤のように、住民を地域ごと守ってくれるハードはない。「たぶん大丈夫だろう」と思い込める要素が乏しいのだ。

キューバはハリケーン被害にあっても犠牲者は少ない photo by GettyImages

キューバは国民1人当たりのGDPは7097ドル(2016年)と低く、決して裕福な国とはいえはない。財政難で、インフラ整備にかける予算も乏しいため、防波堤などの防災設備も皆無に等しいという。

しかし一方で、自然災害対策、なかでも人命を守ることには力を注いでおり、早期警報システムや避難体制の充実を図ってきた。そこには、人命を第一に考える、政府の姿勢が表れている。

つまり「正常性バイアス」は、インフラ対策が充実している経済大国のほうが陥りやすい、恵まれた国の問題ともいえる。

 
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