# 将棋

なぜ羽生善治のことばに、私たちは癒されるのだろうか

これが「羽生メソッド」ではないか?
高川 武将

「私の人生観は将棋に大きく影響されている」と羽生は断言する。

例えば、「勝つことに意味はない」と言う。「闘うものはない」「相手を打ち負かそうとは考えない」「ギリギリの均衡を保つのが理想」「考えてもしようがない、突き詰めてはいけないこともある」……。

また、「新しい発見を探している」とも言う。「自分が指して、自分で面白いドラマを観たい」「他力が大事」「すべては楽しむ」……。

あるいは、「心はコントロールできない」とさえ言う。「モチベーションは天気と同じで変えられない」「無理をしない」「諦めることも大事」「勝っても負けても、すぐに忘れる」……。

さらに、「自分の役割なんてない」と言い切る。「将棋の真理は幻」「自分ができることをやっていくだけ」「普通に、自然に」……。

 

勝つための逆説

取材を繰り返すうちに、私は自分が苦しい状況に置かれたとき、これらの羽生の言葉をひそかに「羽生メソッド」と名付け、インタビューの文字起こしを読み返したりするようになっていた。

私が癒しを感じた羽生の言葉の数々がどんなやりとりから出てきたのかは、本書を読んで頂くしかない。

ただ、そうした考えは一見、仏教的でもあり、勝負を超越してしまったような感があるが、実は逆で、すべては勝つための逆説でもあるのだ。羽生は常に命がけで闘っている。だからこそ、その言葉に癒される。

そんな羽生が、3度目の永世七冠への挑戦となった昨年10月の竜王戦七番勝負の開幕を前に、こんなことを何度も言っていた。

「年齢を重ねるにつれて、目標を見つけるのは本当に難しい……」

私が話を聞き始めたのは、羽生が40歳になった直後だった。それから7年間、ずっとそんな思いを抱えて指し続けてきたという。

ついに勝負の頂きにたどり着いた羽生は、目標を見つけることができたのか。羽生はいったい何を超越しようとしていたのか。そして羽生の「生きる意味」とは何なのか。

返ってきたその答えは驚愕すべきもので、とても深く、私はまたも癒されたのだ。

読書人の雑誌『本』(2018年11月号)より

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