羽生の答えとは?(photo by iStock)
# 将棋

なぜ羽生善治のことばに、私たちは癒されるのだろうか

これが「羽生メソッド」ではないか?

「敗北感」が渦巻いて

苦しいけど、楽しい。辛いけど、面白い。そんな勝負の連続だった──。

将棋の永世七冠達成という前人未踏、空前絶後の大偉業を成し遂げた羽生善治を、足掛け9年にわたって取材し続けたインタビュー・ノンフィクション『超越の棋士 羽生善治との対話』を上梓した今、私は率直にそう思う。

最初のインタビューで感じた違和感を今でもよく覚えている。

羽生は真摯に話してくれていた。内容自体も悪くはなかった。それは同席していた編集者が「面白かったですね。やりとりがシンクロしてましたね!」と興奮していたことにも表れていた。

だが、それでも、私の内心には、肝心なことが一つも聞けていないような「敗北感」が渦巻いていたのだ。長年、トップアスリートを取材し記事にすることを生業としてきたが、それまでに感じたことのない独特の感覚……。

この違和感はいったい何だろう? 私は煩悶した。

大きな要因は、羽生の感情、もっと言えば心の奥底にあるものがダイレクトに伝わってこないからではないか。羽生の心を知りたい。

そう思った私は、次回からさらに入念な準備をしてインタビューに臨んだ。こう聞いたらこう答えるという枝分かれするパターンをいくつも考え、全体の構成をシミュレーションし、練りに練った質問も用意した。

だが、どんなに頑張って聞いても、飄々と話す羽生にするするとかわされる感じで、負けてしまいそうになる。

 

「諦めることも大事」

面白いのは、それからだ。追い詰められた私が、用意した質問ではなく、何とか食らいつこうと苦し紛れに放った問いに、羽生はこちらが啞然としてしまう意外な答えを返してくるのだ。いつも朗らかに笑いながら……。

私はその言葉の意味を考え、煩悶し、今度こそ、つかまえるぞと意気込んで次のインタビューに臨み、また別の意外な答えを聞き──そんなことを9回も繰り返してきた。

ただ、彼との対話を続けてこられたのは、意表を突かれることの連続だったからだけではない。

これも不思議な感覚なのだが、羽生に話を聞くたびに、私はいつも癒されていたのだ。生きる力を与えてもらったような心持ちにさえなっていた。

なぜ、これほどまでに勝ち続けてきた人に、私は癒しを感じてしまうのか……。その謎を解くことこそが最大のモチベーションだった。