山崎賢人のような医師も実在!ドラマ『グッド・ドクター』のリアル

過酷だけど大切な小児医療の現実
折原 みと プロフィール

小児科医不足、赤字経営……

ドラマの中でも描かれていることだが、日本の小児医療の現状は厳しい。私が漫画を描いていた10年前から問題になっていた小児科医不足は、今も改善されてはいない。2016年に厚生労働省が発表したデータによると、日本国内の小児科医の数は10344名で、全体の医師数に対して6.4%。ドラマ『グッド・ドクター』で描かれている小児外科医に限定すると802名で、わずか0.3%にすぎない。

 

子供は大人と違ってちょっとした治療や診療にも人手や手間がかかる。子供と大人の体は医学的に全く異なり、治療も専門性が高い。小児科医を一人育てるのには、大変な手間と時間がかかる。しかし、そうした原因によって小児科医が不足すると、ひとりの小児科医の負担が増え、激務を強いられることになる。しかも、大人の診療に比べて採算性が低いため、近年ではコストカットを目的として小児科を廃止する総合病院も多い。小児科のある数少ない病院に患者が集中するため、ますます医師の負担が大きくなったり、患者が思うような診療を受けられない……という、深刻な問題が起こってしまうのだ。

確かに、経営効率の面から言えば、人手や手間がかかる割に収益の少ない小児科は採算性の悪い診療分野だろう。特に、重病の子供たちに高度で専門的な治療を提供している小児専門病院では、最先端の機材や施設を維持するために莫大な費用がかかる。例えば前述の長野県立こども病院のような公立の施設であれば、その赤字を補填するために使われるのは税金だ。しかし、それを無駄だと怒ることができるだろうか? 子供たちの命は、お金に替えることはできない。 

2009年刊行の『天使のいる場所 Dr.ぴよこの研修ノート』4巻でも小児科医不足を取り上げている。その現状が変わっていないということだ ©折原みと

『グッド・ドクター』の中でも、湊たちが働く東郷記念病院では、小児外科を廃止し高齢者向け医療型病院にする計画が進んでいる。存続の危機に直面した小児外科がどうなるのかも、物語の大きな柱だ。

自閉症という障害を抱えた主人公が、偏見や困難と戦いながら夢をめざし成長していく姿を描くとともに、制作側はこのドラマを通じて、「小児医療にまつわる問題点にスポットを当て、その最前線で戦う医師たちの存在と必要性を知ってほしい」という。スタッフにも演者にもそんな真摯な想いがあるからこそ、『グッド・ドクター』は観る人の心に響いているのだろう。

新堂湊のようなドクターはいるのか

ところで、ドラマの主人公・新堂湊のように、障害を抱えながら医師になることは、現実に可能なのだろうか? 
長野県立こども病院、神経小児科部長の稲葉雄二先生に、お話を伺ってみた。

自閉症スペクトラム障害を持つ人が医師になることは、充分にありえます。この障害を持つ人は高い知的能力を有していることもあるので、実際、医師の中には程度の差はあれ自閉症スペクトラム障害の方もいます。ただ、コミュニケーション能力に問題があって、誤解されやすかったり、想定外のことが起こるとパニックを起こしてしまったりする場合もあるので、臨床よりも基礎系の医師になることが多いのですが。それでもドラマの主人公のように臨床医をめざすことも決して不可能ではありませんよ」

障害を持っていても、周囲の理解や協力があれば、夢を叶えることはできる。それは心強い現実だ。

障害のことで最初は周囲の理解を得られないこともあったが、共に同じ思いで働いていくうちにわだかまりが氷解していく。ドラマ『グッド・ドクター』より

「ドラマを通じて、自閉症に対する世間の理解が深まってくれると嬉しいですね」と稲葉先生は語る。

「神経小児科という我々の仕事には、ハンターのような派手さはない。ファーマーのように、時間をかけてじっくりと育んでいく仕事。だけどその重要性が、じんわりと世間に伝わってくれることを願っています」

小児科の医師として一番喜びを感じるのは、大人になった患者さんが、親になって頑張って子育てしている姿を見る時。患者さん本人や、その闘病を見て育った兄弟が、成長して医療関係者になってくれた時だという。