秋田の人口たった2600人の村が「学力日本一」になった秘密

スーパーも塾もないけれど…
あんばい こう プロフィール

図書費予算は全国平均の4倍以上

さらに鶴飼は「読書」の重要性も強調する。

村に図書館はないが図書室がある。そこには村独自の予算で図書館司書を1名雇っている。

村の児童1人に対して、組まれている図書費予算は約6000円。全国学校図書館協議会の「15年度学校図書館調査」によれば、児童1人当たりの図書購入費は全国平均1395円だ。授業の始まる朝の10分間は読書の時間にあてられる。月に1回15分ほどの読み聞かせのカリキュラムもある。放課後になると子供たちはすぐに図書室へ行く。

本を読む環境がすぐそばにある、ということが大切なのだと鶴飼は言う。

「読書から得られるもの、それも異質性です。今まで蓄えたものと違う世界に、自分を向き合わせてくれます」

いたるところに小さな図書室がある(筆者撮影)

「大切なことはコミュニケーション能力です。学力よりもこちらが優先します。村の子はいろんな意味でハンディがある。表現力が豊かにならないと社会で生き抜いていけない」

コミュニケーション能力は、閉ざされた人間関係の中で生きなければならない村の子供たちの命綱である。

発表する力が豊かな想像力を育てる。相手のことを考え「優しく話し、あたたかく聞く」。対話や議論が自分の足で歩いていくための人間力をつけ、思考力・判断力・表現力を伸ばす。授業中の集中力が途切れない、自分の考えを自分の言葉で話す、と高く評価される授業風景の、それが源泉なのだ。

 

授業参観の出席率「120%」

「自己評価の高い、劣等感を持たない子供を作ることが、私たちの最終的な目標です」

確かに村の子供たちを見ていると、大人たちにいつくしまれ、伸び伸びと躍動している姿が印象に残る。

東成瀬村の児童生徒の7割以上は、祖父母と暮らす三世代同居世帯だ。祖父母世代の子育てへの参画意識は高く、授業参観には彼らも加わるため、出席率が「120パーセント」に達することも珍しくない。

鶴飼たちは、保護者に学習環境を整え、家庭学習を習慣化することを徹底させただけでなく、村による学校給食の無料化や通学費、学習塾費(村営の塾)への補助、入学祝い金の支給といった経済的支援にも積極的に取り組んだ。

こうした村と保護者が一体となったバックアップ体制が、高い学力を支える重要な教育インフラになっているのはまちがいない。