秋田の人口たった2600人の村が「学力日本一」になった秘密

スーパーも塾もないけれど…
あんばい こう プロフィール

ひとりひとりの長所を伸ばすしかない

単刀直入に村の人たちにこの質問をぶつけると、かなりの確率で「(町村)合併しなかったから」という答えが返ってくる。

高校野球に例えると、100人の部員のいる野球部はレギュラーになるために激しい競争がある。100人の切磋琢磨によってチームは強くなるが、当然、落伍者も多くなる。

それが、東成瀬村には最初からギリギリの9人しかいない。1人の故障者や落伍者が出ても試合出場は不可能だ。慎重にひとりひとりの個性を見極め、短所をつぶすのではなく、長所を伸ばす方法しかとれない。

小さなコミュニティであることが、結果として目の行き届いた細かな教育を可能にした。「もし村が合併していたら、こうした村の長所は、大きな自治体の仕組みに吸収され、平均化し、とっくに消えていた」というのだ。

実際、東成瀬村には小中学校合わせて200人ほどの児童生徒しかいない。高校は村内にはない。

村の教育現場の中心にいる人物が、2006年から現在まで東成瀬村教育長として、その屋台骨を担っている鶴飼孝である。

 

村独自の「小中連携教育」

鶴飼は1944年生まれ。高校卒業後いったんは民間企業に勤めたのだが、教師の夢断ちがたく、秋田大学教育学部に入学、教師になった。

鶴飼の教育のモットーは実にシンプルだ。

「(子供たちに)異質なものを受け入れる力をつけさせること。他者に触れてこそ、子供は人になる」

村の子供たちは少人数の小さなコミュニティを生きる定めだ。1学年1クラスしかない。小学1年から中学3年まで同じ顔ぶれで9年間の学校生活を過ごさなければならない。こうした特殊な教育環境が東成瀬村の教育的欠陥だが、視点を変えれば、そここそ最大のメリットでもある。

全校生徒102人の学習発表会(筆者撮影)

鶴飼が打ち出した方針は「小中連携」だ。

「小中連携」そのものは目新しいスローガンではない。ただ、他校が「小中連携」をうたうのは「不登校やいじめ」「学力低下」などの解消が目的だが、村には不登校も学力低下もない。小学校入学から中学卒業まで同じ顔ぶれで育つため、議論などしなくても気心は知れている。

問題は、その仲良しグループがそのまま社会に出てしまうことだ。「正直」で「純朴」なだけでは社会を生き抜くのは難しい。競争力も社会性も世界観も未熟なまま、子供たちをグローバルな社会に放りだすわけにはいかない。

200人の子どもたちを、地域の大人や先生を交えてシャッフルし、グルーピングする。その年齢層の異なるグループがさまざまな作業を共にする。意識して日常生活の中に地域と学校の連携環境を作り上げたのだ。子供たちは異なる世代の人々や異質な考え方に自然と触れ、大人たちとの共同作業に慣れていく。

さらに、子供ひとりひとりの学力状況を9年間にわたって追跡する。そこに「つまずき」が見つかれば、小中双方の教職員が情報を共有し、授業の改善につなげていく。これが鶴飼のいう「小中連携」の中身だ。