松田龍平が原作者と語り合う『泣き虫しょったんの奇跡』撮影秘話

松田龍平×瀬川晶司

9月7日から公開中の話題の『泣き虫しょったんの奇跡』。プロ棋士になることを諦められなかったサラリーマンが、いくつもの困難を乗り越えて本当にプロになるまでのドラマを描いた、実話をもとにした感動作だ。原作者で、サラリーマンからプロになるという夢を実現した棋士の瀬川晶司五段と、「しょったん」こと瀬川氏役を演じた主演・松田龍平氏が熱のこもった撮影の日々を振り返った。

撮影・神谷美寛/構成・松木 淳

プロ棋士の所作は難しい

瀬川 龍平さんに初めてお目にかかったのは確か……。

松田 去年の六月でした。

瀬川 そうでした。僕の著書『泣き虫しょったんの奇跡』が映画化されることになって、僕は将棋監修・将棋指導という役割をいただいて、映画づくりにも参加できるという幸運に恵まれました。実際の撮影は八月の下旬に始まったのですが、その約ふた月前から棋士役の俳優の皆さんに向けて将棋指導することになって、そこで初めてお会いしたんですよね。

 

松田 指導を受けながら、将棋の所作は決まりごとがない分難しいなと思いました。プロ棋士の方は子どものころから何十年も(一枚の駒を手に取り盤に指しながら)この動作を繰り返してるわけじゃないですか。棋士の在り方によって手つきはもちろん変わると思うし。駒を盤に置くという、簡単な動きなんですけど、だからこそ説得力を出すのは難しかったです。

瀬川 所作は有段者になればだいたいキレイになるといわれています。つまり有段者になるくらい数多くの局面を経験しないと美しい所作は身につかないということなんですね。手にした駒は最終的には中指と人差し指で挟んだ状態でパチンと置くわけですが、初めのうちはちゃんとマス目のなかにおさめることもできないものです。

でもやっぱり龍平さんをはじめとして役者のみなさんは勘がいい。すぐに流れるような指し方を身につけられました。あの時点で龍平さんは将棋の経験はほとんどなかったんですよね。

松田 駒の動き方がわかるぐらいでしたね。初めて将棋に触ったのは小学生のときで、相手の方が上手で歯が立たなくてコテンパンにされて。二度とやるもんかと(笑)。あと以前、山で映画の撮影をしていたときに、天候の問題で山小屋にこもることが多くて、その待ち時間に共演者と将棋を指すのが日課になっていて、お互いまったく初心者だったから、どちらかが大きなミスをしないと勝負がつかない。終わらない戦いを延々としていたことがありました。

<松田龍平 (まつだ・りゅうへい)1983年、東京都生まれ。'99年に大島渚監督作品『御法度』で俳優デビュー。同作で第23回日本アカデミー賞新人俳優賞、第42回ブルーリボン賞新人賞をはじめ、数々の新人賞を独占して話題となる。2013年の『舟を編む』で第37回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞ほか多数の主演男優賞を受賞し、今や日本を代表する俳優の一人>

瀬川 ハハハ。それって初心者同士によくあることですよ。お互い詰ませることができないんですよね。

松田 相手が王手をしてきたら一歩逃げる、を繰り返して、追いかけっこでした(笑)。今回の映画の撮影では、将棋を知らない分、とにかく駒を置くときの手の動きだけを練習しようと思って。

瀬川 僕も、映画の将棋シーンは対局の一部だけを見せることになるので、駒の持ち方や指し方がサマになっていればいいのかなと。「指導」というのは所作の指導のことかなと考えていたんです。でも豊田(利晃)監督にルールからきっちりやってほしいといわれて。

結局のところ、なぜこれが形勢不利な局面なのかとか、なぜこの一手が悪手なのかとか、そういうことを少しでも理解していた方が演技にも好影響を与えると考えられたのかもしれませんね。だから龍平さんたち役者さんの前に一台ずつ盤を置いてとりあえず一局指す。指しながらここはこの手よりこうした方がいいですよ、と説明していく。その上できちんとマス目のなかに駒を置くことや成り方など、また所作についても指摘させていただきました。