「こんなノックじゃ選手に申し訳ない」智辯和歌山前監督、引退の理由

またひとり、名将が去っていく
週刊現代 プロフィール

練習だけが力をくれる

徹底した対策が功を奏し、智辯和歌山打線は田中から4点を奪う。しかし、それを上回る7点を失い、「田中退治」は果たせなかった。

「田中の時の駒大苫小牧も、今の大阪桐蔭もそうですが、技術的にも才能的にも傑出した化け物のような選手を集めている。彼らと、ウチの地力の差は歴然なんです。

それでも、同じ高校生なんだから、なんとか勝ちたいじゃないですか。じゃあ、どうするか。

やっぱり、努力するしかないんです。だからこそ、子どもたちには人一倍ハードな練習を課してきた。ダッシュ100本、素振り1000回、腹筋・背筋2000回。限界まで追い込んでいました」

Photo by GettyImages

しかし、ここ10年ほどは、そうした練習は課さず、メニューも部長に一任していたという。

「今は最新の効率的なトレーニングを取り入れています。それはそれで一つのやり方でしょう。でも、個人的にはやっぱり絶対的な練習量が足りていないと思っています。

逆境に立たされたとき、子どもたちの心を支えてくれるのは、『あれだけ練習したんだから、負けるはずがない』という自負だけでしょう。その自信は、世の中に出てからもきっと生きる。古い考えかもしれないけれど、僕はそう信じています。

ただ、時代がそういうやり方を許さないこともわかっている。その意味でも、僕らの時代は終わったのかな、と……」

 

今年の4月、北海道を訪れた高嶋は教え子の西川遥輝(日本ハム)にチケットを用意してもらいゲームを観戦した。

「それなりの数の教え子をプロの世界に送り出したのに、試合を球場で観戦したのは初めてでした。

思えば大学を出てからずっと、高校野球、そして甲子園しか眼中になかった。子どもたちと、あのグラウンドに立つことが僕の青春であり、人生のすべてだったのです」

昭和の香りがする名将がまたひとり、ノックバットを置いて去っていく。

「週刊現代」2018年9月15日号より