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「こんなノックじゃ選手に申し訳ない」智辯和歌山前監督、引退の理由

またひとり、名将が去っていく

田中将大の衝撃

「3年くらい前から、潮時かなと思っとったんです。ノックができんようになったら終わりや、と」

8月25日に退任を発表したばかりの智辯和歌山・高嶋仁前監督(72歳)は、すっかり日に焼けた顔に笑みを浮かべながら、訥々と語りだした。

「監督と選手の一番濃厚なコミュニケーションはノックだと信じてずっとやってきました。こちらも本気、向こうも本気でぶつかり合って、お互いに成長していく。

ところが、最近は速い球を打つとすぐ息があがる。こんなノックじゃ、選手に申し訳ない。100回大会を区切りと決めました」

 

この夏、高嶋にとって最後の甲子園は、1回戦で滋賀県代表の近江に3-7で敗れて幕を閉じた。自身の持つ甲子園最多68勝の記録の更新は叶わなかった。

「あの試合の終盤は、どうやって勝つかよりも、まだ試合に出ていない控えの3年生をどこで起用するかを考えていました。本当は、最後の1球まで勝利にこだわらなければ監督として失格かもしれません。

しかし、3年間を野球に捧げてきたのに、甲子園で試合に出られない子がいてはいけないという思いのほうが強かった。そうやって、48年間やってきましたから」

通常の強豪校は、全国から選りすぐりの部員を100人単位で抱えるところが珍しくない。だが、智辯和歌山は1学年10人程度で、そのうちのほとんどを県内から獲得するというルールを、かたくなに守り続けてきた。

「部員の多い高校に遠征に行くと、試合に出られない3年生が何十人と遊んでいるのが見える。貴重な高校生活をそんなふうに浪費させるのは、あまりにもったいない。それなら10人を鍛えあげ、全員の力で甲子園の土を踏もうと思いました」