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稼いだカネは全部寄付、家も車も持たない…寺田倉庫社長の変な人生

「何も持たない」異形の経営者に学ぶ
週刊現代 プロフィール

刹那を楽しむということ

既存の倉庫業を続けているだけでは未来がない。寺田氏には息子がおり、将来の経営者としてバトンを繋ぐために、事業再編を中野氏に託したのだ。

「私の思い描く会社像も理解しているし、事業の交通整理もできる。私の夢も実現してくれるありがたい存在です」(同)

中野氏の人脈は台湾にとどまらず、中国、シンガポールの富裕層とも太いパイプを持っている。

「酒は飲まないけど、ワインの価値についてはよく理解しているし、富裕層がなぜアートを求めるのかもよく知っている。彼が美術品を預かる商売を始めたのも、その価値をしっかり保存する意味を知っているから。

このビジネスはいま、特に華僑に受けています。富豪たちがアートを資産の一部にするのは、政情がいつ変化してもおかしくない大陸に生きる華僑の、長期的な生存戦略の一つでもある。だからより安全な日本の倉庫に保存を依頼するのです」(同)

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寺田倉庫と合弁会社を作った松竹の迫本淳一社長も、中野社長の手腕に魅了された一人だ。

「アイデア豊富で圧倒されるんです。京都四條南座で新機軸を打ち出すアイデアをお願いしたら、『舞台と客席をやめて、フルフラットにしよう』とか、『複数の演劇が同時進行するオムニバス演劇を作ろう』とか、規格外の発想が次々に飛び出してくる。話していると引き込まれます」(迫本氏)

豊富なアイデアをアグレッシブに実現し続けているのが、中野氏なのだ。

 

中野氏は、寺田倉庫の社長になってからも週末は台湾に戻る生活だ。寝泊まりするのは自宅ではなく、主に台北のホテル「グランドハイアット」だ。「仕事に専念するため、ハウスクリーニングは任せたいから」だという。

隈氏は「何も持たない」中野氏をこう見ている。

「ある種の刹那主義者だよね。彼が倉庫の社長をやったのは『預けて安心』を作りたかったんじゃないかな。

子孫に資産を残す心配ばかりしていたら、人生、つまらないでしょ。富豪たちの心配を除いて、刹那を楽しんでもらいたい。それは中野氏の生き方そのものだと思う」

寺田倉庫には社長室もない。ミニマリスト社長は、椅子のない机の前に立ったまま、今日も執務を続けているという。

「週刊現代」2018年9月15日号より