理科のテストで小学3年生がガリレオと同じ仕打ちを受けた深刻な理由

ラボ・フェイク 第9回
伊与原 新 プロフィール

プレートテクトニクスを拒んだ科学者たち

一般にはほとんど知られていないが、実は日本でも似たようなことが起きていた。生物学の分野ではなく、地球科学――「プレートテクトニクス」の受容においてである。

中央海嶺で生まれたプレートが、沈み込み帯で大陸地殻の下にもぐり込み、それが地震や火山活動を引き起こす。大きな地震が起きるとそんなイラストがニュースに頻繁に登場するので、よくご存じだろう。日本列島を形成した造山運動も、突きつめればプレートの沈み込みによるものだ。

プレートテクトニクス理論が欧米で生まれ、ひととおりの完成をみたのは、1960年代。それほど昔のことではない。当然日本にも研究の進展がその都度紹介され、地球物理学(地震、重力、地磁気など)の研究者たちはすぐさまその流れにのった。

[写真]プレートの運動が大陸を動かし、造山活動や地震活動の原因になるというプレートテクトニクス理論。地震災害の解説などでもおなじみの、こうした説明だが、日本では一部の科学者から意外な抵抗を受けた(Photo by GettyImages)プレートの運動が大陸を動かし、造山活動や地震活動の原因になるというプレートテクトニクス理論。地震災害の解説などでもおなじみの、こうした説明だが、日本では一部の科学者から意外な抵抗を受けた(illustration by iStock)

ところがだ。地層や岩石を専門とする地質学の研究者たちは、その大半がプレートテクトニクスを批判し、拒絶した。それを受け入れさえすれば、日本列島の複雑な地質構造と発達史を整合的かつシンプルに説明できるにもかかわらず、である。なぜか。

実は当時の日本地質学会は、「地学団体研究会」(地団研と略す)というマルクス主義色の濃い団体の支配下にあったのだ。そのあたりの科学史的な動きは、泊次郎著『プレートテクトニクスの拒絶と受容』の中で詳しく解説されている。

泊氏によると、地団研は、日本地質学会の会長や評議員の候補者を推薦し、多数当選させることで組織の実権を握っていったという。1970年代初めには、地質学会の会員のほとんどが地団研にも所属していたらしい。

地団研の地質学者たちは、日本列島形成論として「地向斜造山論」なるものを信奉していた。詳しくは述べないが、地向斜という地質構造が“自己運動”によって山脈を形成するという理論である。これがルイセンコ学説同様、マルクスの歴史法則主義と親和的だと考えられたわけだ。

 

1973年に小松左京の『日本沈没』がベストセラーになると、多くの国民がプレートテクトニクスというものを知った。また、同年から高校地学の学習指導要領が変わり、地向斜造山論にかわってプレートテクトニクスが教えられることになった。

一般市民や高校生がそのエレガントな理論を抵抗なく受け入れていく中、その道のプロである地団研の地質学者たちだけが地向斜造山論にこだわり、プレートテクトニクスを頑迷に拒み続けたのだ。今振り返れば、その姿は滑稽にも映る。

泊氏によれば、日本の地質学者たちがごく当たり前にプレートテクトニクスを前提とした議論を展開するようになったのは、1985年以降。地球物理学分野や一般社会に遅れること10年以上ということである。

「科学」か、「プロパガンダ」か

科学が歪められたのは左翼陣営に限った話ではもちろんない。冷戦下のアメリカでは、軍拡のために科学があからさまな抑圧を受けた。「核の冬」論争である。

1980年代初め、レーガン政権は戦略防衛構想(SDI)を打ち出そうとしていた。スター・ウォーズ計画として知られるこの構想は、飛んでくる弾道ミサイルを宇宙に配置した兵器で破壊しようというものだ。

[写真]マーティン・マリエッタ社(現ロッキード・マーチン)の工場でSDI構想で配備する衛星兵器の模型を前に演説したレーガン大統領。構想の発表は前日まで国防総省幹部にも伝えられなかったという(Photo by GettyImages)マーティン・マリエッタ社(現ロッキード・マーチン)の工場で、SDI構想で配備する衛星兵器の模型を前に演説したレーガン大統領。構想の発表は前日まで国防総省幹部にも伝えられなかったという(Photo by GettyImages)

アメリカの科学者たちは、この構想は東西の軍拡競争を加熱させるだけだと考えた。SDIが実際に配備された場合、東側陣営とすれば、より多くの核弾頭を打ち込む必要が出てくるからだ。東側が核ミサイルの数を増やせば、西側も当然それに対抗することになる。

SDIに反対の声を上げた科学者の一人が、かの有名なカール・セーガンである。セーガンはNASAの太陽系探査計画で指導的役割を果たした惑星科学者で、彼が司会をつとめた科学ドキュメンタリー番組『コスモス』は世界中で人気を博した。

[写真]『コスモス』をはじめとするテレビ番組や書籍で宇宙について一般向けの解説を積極的に行い、カリスマ的な人気を得たカール・セ-ガン。写真は1974年1月、CBSのスタジオにて(Photo by GettyImages)『コスモス』をはじめとするテレビ番組や書籍で宇宙について一般向けの解説を積極的に行い、カリスマ的な人気を得たカール・セ-ガン。写真は1974年1月、CBSのスタジオにて(Photo by GettyImages)

セーガンとNASAエイムズ研究所の研究者たちは、核兵器の使用によって発生する大量の塵が気候にどのような影響を及ぼすか、数値シミュレーションを試みた。その結果、たとえわずかな量の核爆発でも地球は闇に包まれ、数ヵ月にわたる極端な寒冷化――「核の冬」が続くことが明らかになったのだ。