パナソニック27万人の命運を握る「40歳の副社長」いったい何者か

再生を託されたキーマンにインタビュー
週刊現代, 田原 総一朗 プロフィール

—なぜ、パナソニックを変えるための研究所が、大阪でも東京でもなく、アメリカのシリコンバレーにあるのですか。馬場さんもシリコンバレーにいらっしゃる。

「理由は二つあると思っています。一つは、シリコンバレーというのは、とにかく無国籍化したエリアです。アメリカではない。そこではまず世界をフラットに俯瞰して見ることができる。

シリコンバレーに住んでいる人たちは、母国や所属企業の国籍をまったく意識せず議論します。まず世界を見ている。とにかく『世界が困っていることに貢献する』という意識が非常に根強いエリアだと思います。シリコンバレーにいることによって、中東であろうと、ヨーロッパであろうと、新興国であろうとも、世界の問題がフラットに見える」

 

なぜシリコンバレーなのか

—もう一つの理由は?

「テクノロジーです。人類史上ないくらい、このシリコンバレーにテクノロジーが集中し、世界中の数十億人に対して多大な影響を与えている。そこに大きな拠点を持たないという日本企業があるとすると、その成長を疑わざるをえません」

—パナソニックだけではなくて、トヨタや三井住友銀行なども、メインの研究所をシリコンバレーに持っています。トヨタの幹部に「なぜシリコンバレーなのか」と聞いたところ、日本にはAIの研究者が少なく、スタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者は日本に来てくれないという。

「昨日ちょうど、MITメディアラボ所長の伊藤穰一さんとお会いしましたが、MITにしても、ハーバードにしても、スタンフォードにしても、研究者たちは日本に来たい、とは思っている。ところが日本の社会が受け入れないのです」

—えっ、日本の社会が受け入れない?

「日本社会は、テクノロジーなり才能なりを持った人間の失敗に対して不寛容すぎるのです。AIの技術者は、日本にも少なからずいるのですが、大学を出て、実際のリアルの社会に適用しようとしたとき、パーフェクトなものを求められ、失敗が許されない。

しかし、リアルの中でリスクをとりながら、失敗を繰り返していかないと、基本的にAIというのは伸びないんです。だから、AIの技術者がいるか、いないかではなく、社会全体がリアルの実験や失敗を甘受しないと、AIの技術者が社会なり、企業なりに参加できないということになります」

居住空間を変える

—AIの権威、東大の松尾豊特任准教授は、「AIで日本の企業はアメリカに3周遅れている」と仰っています。日本の経営者たちは、みんな失敗を恐れてチャレンジしない。

「その通りだと思います。日本の教育は、初等も高等教育も、そして大人になってからの社会人教育も、企業の中での価値判断も、失敗を許されない空気に包まれています。しかし、シリコンバレーでは、3回4回失敗しないと相手にされない。失敗をおかすことが特権なのです。だから私たちの研究所では、『失敗をしないと恥だ』という空気感をどうつくるかに懸命になっています」