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作家・古川日出男が語る、自分の「武器になる読書」のススメ

「わが人生最高の10冊」

50歳を過ぎてようやくできた

人生で最初の小説は、小学2年生の時に読んだ『だれも知らない小さな国』でした。ある少年が小人の世界に迷い込むという童話で、こたつの中で1時間半、姿勢を変えずに夢中で読み通しました。

この作品に魅力を覚えた点は色々とあるんですけど、一つには、葉っぱの裏をめくると小人がいるという想像力ですね。日常のすぐ近くに別な世界はあるのかもしれないと、子ども心に感じたことで、その後の人生に大きな影響を与えられたのだと思います。

 

サロメ』は、初めて読んだ海外の戯曲です。一つひとつの言葉の強さや、感情の極端な造形に惹かれました。

たとえば恋愛感情であれば、それが最も研ぎ澄まされたものになっています。宗教的な力のような本来なら純粋で清いものを、恋愛やセックスなどの根源的な欲望の力と等価に描いていることが衝撃的でした。

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今月文芸誌に発表する戯曲では、『サロメ』を自分なりに劇中劇として書きました。15歳で自分が出会った戯曲に、50歳を過ぎてようやく自分の言葉で挑むところまできました。僕にとってはそれぐらい大きな作品でした。

ぼくらが非情の大河をくだる時』は『サロメ』と同時期に読んだ日本の戯曲です。舞台が新宿の公衆便所で、そこは男が男を求める無法地帯。ある日正体不明の詩人が現れて……と、あらすじだけ見ればわけがわからないんですけど、この物語の根底には権力への問いがあるんです。

既存の権力に対して戦うことの空しさとかっこよさが、いずれも比類ない強度で描かれています。『サロメ』と同じく、多感な時期にこの作品と出会って衝撃を受けたことは、実家に本もろくになかった人間が小説家になるための、確かな礎になりました。

高校1年生の時に自身で演出したこともあって、本作は、自分の文体の基礎作りにも間違いなく影響していますね。