Photo by iStock

どうしたら殺さずに済むか…サイコパスを自覚する男の「孤独と葛藤」

小説『スケルトン・キー』の読みどころ

サイコパスの目線で見た世界

―道尾さんの新刊『スケルトン・キー』は、先の読めないダークなサスペンス。小説ならではの「仕掛け」がたっぷり盛りこまれ、興奮と驚きが詰まっています。「とにかく読んでみて。読めばわかるから!」と誰かに薦めたくなる作品です。

ありがとうございます。途中までの原稿を送ったとき、読んでくれた編集者が全員、「ある仕掛け」にまったく気づいていなかったので、心の中で「ヨシッ!」と思いました。

誰よりも慎重に読み込むはずの編集者の眼をすり抜けたんだから、これはイケるぞ、と(笑)。

―主人公は、19歳の青年・坂木錠也。彼は自らを「サイコパス」だと考えており、命がけのスリルを求めて週刊誌のスクープ獲得を手伝う仕事をしています。

もともとサイコパスの存在には興味があって、脳科学や精神医学の本を何冊も読んできました。

命の大切さを理解できないことや、他人の気持ちがわからず、共感性が低いのが彼らの特徴です。また、発汗しづらい、心拍数が低いなどの性質もあり、心拍数が低いゆえに、刺激を求めて粗暴な行動にでる傾向がある。

 

こうした特徴を持つサイコパスは、サスペンスの登場人物としてはおあつらえむきですが、一般には主人公と敵対する「絶対悪」として書かれることが多いですよね。たとえば『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士のような具合に。

じゃあ、逆にサイコパスの目線で一人称の物語を書いたらどうなるだろうと思ったのが、今作の執筆のきっかけでした。

Photo by iStock

―赤ん坊のときから児童養護施設で育てられた錠也は、施設や学校でたびたび問題行動を起こすうちに同じ施設の少女・ひかりから「錠也くんみたいな人はね。サイコパスっていうのよ」と指摘されます。それをきっかけに、自己の異常性を明確に意識し始める。

錠也は自分の「狂気」に気がつき、それを抑え込むために心拍数を上げるようなリスキーな行動を選びます。19歳という年齢は「自分は変われる」と信じられるギリギリの時期。そういう可能性を宿した主人公として錠也を描きたかったんです。

そして、もうひとつ表現したかったのが、他者の気持ちを理解できない人の「恋」そして「感情」とは、いったいどういうものか、ということ。

それを描写するうえで、ひかりとの交流は非常に重要なので、力を入れて書きました。錠也という人間を説明するうえでも、ストーリーの展開のうえでも、ひかりは鍵を握る人物です。

―他者と同じようにものを感じられない人物が、物語の語り部になる。読者としては面白いですが、書き手としては、ミステリ作品の肝となる動機や心情の変化を描くのが格段に難しくなりますね。

これまでも、女性や老人など「自分とは異なる存在」の気持ちを想像して物語を書いてきました。しかし、「他者の気持ちが理解できない人間」の考えというのは、容易には想像がつかなかった。宇宙人を書いているのと同じような感覚です。

いろいろ考えた末にたどり着いたのが、他人を「モノ」として見ているがゆえに、邪魔になれば平気で「どかす」というパーソナリティでした。