リオ五輪体操女子日本代表の宮川紗枝選手に暴力をふるっていたとして、日本体操協会が速見佑斗コーチの無期限登録抹消措置を発表したことに端を発した問題は、いまや塚原夫妻を中心とした「日本体操協会内のパワハラ問題」に発展している。今回はその問題によって少しずれてしまった、「暴力」がしつけや指導に使われることの問題点に焦点をあてたいと思う。

速見コーチも暴力による指導を受けていた

8月29日に行われた会見で、「被害者」と日本体操協会が認めている宮川選手は、速見コーチから暴力を受けたことは認めながら、速見コーチも暴力について反省しているということ、暴力があったのは1年以上前のことであり、現在は一切暴力がないことを語った。

そして何より速見コーチとの二人三脚で一からやり直したい、より純粋によい体操選手になりたいということを繰り返した。いずれにせよ、一日も早く、宮川選手が健やかに練習に集中できることを願う。

2016年のリオ五輪のときの日本代表女子体操チーム。中央にいる宮川紗枝選手は2018年9月現在まだ18歳だ Photo by Getty Images

さて、9月5日に「暴力行為はどういう理由であれ、決して許されることではないといま深く実感しています。今後一切暴力行為はしないと誓います」と会見したのは、速見コーチ自身だ。そこで、速見コーチはこうも語った。

「(自分の子どもの頃も)気持ちが入っていない時に叩かれたりとか危ない時に叩かれたりとか(そういう指導を受けていた)。当時はそれに対して教えてもらえたというむしろ感謝の気持ちをもってしまっていたので、そこがやっぱり自分のなかの根底にあった」

つまり、速見コーチは「しつけ」「教育」として暴力を受けていたし、だからこそ「暴力」がしつけに効果があると信じ、実行していたのだ。

2015年に撮影されたという、宮川選手の身体が揺らぐほどの張り手をしている動画がFNNの独自入手による報道で拡散された。当時15歳の宮川選手への暴力は「見るだけで怖い」「ありえない暴力」という意見が集まったと同時に、「子どもが平手打ちされて子どもを連れだした時、『コーチに叱咤激励されるのは期待の証なのに、親が甘やかしてバカね』といわれた」というコメントも見られ、暴力に対する意識の差を改めて感じさせる結果となった。

では暴力による「しつけ」はどのような問題があるのだろうか。アメリカと日本で35年以上子ども虐待・女性への暴力防止に携わる専門職の養成に携わり、日英文著書も多い森田ゆり氏は、『虐待・親にもケアを』(2018年築地書館)、『しつけと体罰』(2003年童話館出版)の中で体罰の問題性を的確に指摘している。なぜ体罰はいけないと言い切れるのか。「しつけ」とは何か。上記の二冊に書かれていることから抜粋の上、紹介する。

60%が「しつけのために子どもを叩くべき」

公益社法人セーブ・ザ・チルドレンは国内2万人を対象にした画期的な体罰等に関する意識・実態調査を実施し、2018年2月に発表しました。報告書によると、しつけのために体罰を容認する人が56.8%。しつけのために子どもを叩くべきだと答えた人は60%。決してすべきでないと回答した人が40%でした。同時に行った1030人の子育て中の親への実態調査では、体罰を1回以上したことがあると答えた人は70.1%、一度もしたことがない人が29.9%と報告しています。

2010年に朝日新聞社が行った意識調査では、親による子の体罰は必要と考える人が58%でした。子どもをしつけるためには体罰は必要だとの考えは、大変に広く深く根を張っているのです。