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菅義偉官房長官は後藤田正晴と野中広務を超えたか

安倍首相も恐れる「陰の総理」

地盤・看板・鞄の「三バン」なしで議員となった菅義偉は、官房長官の史上最長在任記録を更新し続ける。これまでの「名官房長官」と比べると、独特の存在だ。

「スガちゃん」「総理」

首相官邸5階の総理執務室に、内閣官房長官・菅義偉は一日何度も出入りする。そのたびに部屋の主に一礼し、「失礼します」と声をかける。自分を「スガちゃん」と呼ぶ年下の総理大臣・安倍晋三に対して、菅は「総理」と応じるのだ。

かかる「総理への忠誠心」こそ、菅最大の凄さだと田崎史郎氏(政治ジャーナリスト)は言う。

「後藤田正晴、梶山静六、野中広務、福田康夫といった名官房長官を長く取材してきましたが、みんなどこかで『俺がいるから内閣は持っているんだ』という意識があった。だが菅さんは『総理を尊敬している』と公言し、礼節を尽くすのです」

第2次安倍政権の発足と同時に官房長官に就任した菅は、在職5年8ヵ月に達し、福田康夫(3年7ヵ月)を抜いて史上最長の官房長官在任記録を日々更新し続けている。

総記者会見回数は2400回近くに達し、「ギネスブックに申請すべきだ」との冗談交じりの声も聞こえてくる。

8月下旬、3人しか従業員のいない沖縄県の土木業者に、男は直接電話をし、相手を仰天させた。

「菅です。佐喜眞(淳)をよろしくお願いします」

沖縄県知事選の自民候補勝利のため、抜かりはない。菅の日常である。

'12年12月の就任以来、横浜の自宅には一度も泊まらず、赤坂議員宿舎からの出勤を続ける菅の忠誠がなければ、安倍長期政権は存在しえなかった。

8月になって突然浮上した「携帯電話料金4割下げ」のプランも、菅が政権アシストのために周到に動いたものだ。

「来年10月の消費増税を見据えると、教育無償化などの経済パッケージだけでは弱い。国がカネを出せないなら、携帯会社に負担させればいい」

菅は周囲にこう語っていた。総裁選を前に、世論を味方につけるための最高のタイミングだ。事前に総務省にも根回しし、計算のうえに動いた。携帯会社はグウの音も出ない状態だ。安倍は、「さすが、スガちゃんだね」と新聞を見ながら喜んだ。

 

総理と官房長官の関係はなかなか微妙だ。官房長官のほうが年齢や経歴が上だった場合、しばしば総理より脚光を浴びる。

中曽根康弘時代の後藤田正晴、橋本龍太郎時代の梶山静六、小渕恵三時代の野中広務が好例だ。

菅も、安倍より6歳年上だ。安倍は岸信介直系のプリンスとして政治家人生を歩んだが、菅は秋田の豪雪地帯から単身で上京した集団就職組、叩き上げの政治家である。

菅が内閣人事局をつくり、官僚人事を支配してきたことはよく知られる。官僚操縦については、師である梶山静六から学んだ。

'90年代後半、不良債権処理問題の際、官房長官だった梶山は、税金投入を主張する大蔵省と対立した。梶山は腹心の菅にこう語っている。

「官僚には官僚の考えがあり、説明の天才だから、それを政策に入れ込んでくる。お前なんかすぐに騙される。見抜く力を持たなければいけない」

この忠告を、菅は忠実に守っている。梶山が橋本内閣でつくった「閣議人事検討会議」は、菅の内閣人事局の原型だ。

「官僚ではなく、国民に選ばれている政治家が政策を主導するというのは、橋本行革の原点であり、菅さんもその系譜を受け継いだ」(前出・田﨑氏)