「世界ネオナチ連合」は誕生するのか?〜欧米の地滑り的極右化の行方

そして日本は…?
河東 哲夫 プロフィール

米国白人の「最後の抵抗」?

それより不気味なのは、米国の極右勢力の「オルタナ右翼Alt-Right」、そしてその一員と目されるスティーブン・バノンの動きだ。

彼はトランプの選挙参謀として、保護主義と反移民で中西部の白人保守層をひきつけ、全国得票数でクリントン候補に300万票弱下回りながら、大統領選挙人の数で上回る手品で、勝利を導いた張本人。

その後、クシュナー、イヴァンカ等と対立してホワイト・ハウスから追われたが、古巣の右翼系メディアBreitbardを根城に世界中を飛び回っては、何か企んでいる。

昨年12月には日本にも来たし、7月にはブリュッセルで財団を立ち上げて欧州各国の右翼政党を支援する姿勢を明らかにしている。

トランプ米国に抵抗するメルケル政権の足を、ドイツの極右と共謀して引っ張る、あるいは貿易黒字の解消をトランプから求められるたびにメルケルが言う、「貿易の件は欧州委員会と話してください」という口実を使えないよう、EUを解体してしまうことを狙っているのだろうか。

それとも彼は、単に資金集めを狙っているのか。彼には独裁志向だけでなく白人至上主義、反ユダヤ主義もあると見られ、不気味ではある。

トランプ大統領の下で、白人至上主義、あるいは人種差別という米国の古い病が再び頭をもたげている。

それを代表するものが2005年に設立されたNational Policy Instituteと、それが中心となって繰り広げる「オルタナ右翼Alt-Right」運動で、バノンも一時これのイデオローグと目されていた。

この頃では、トランプ大統領も含め要人が黒人に対する差別用語をおおっぴらに用いる例が増え、そのたびにマスコミ等からの非難を浴びている。

要するにトランプは当選するために、中西部の失業白人だけでなく、白人至上主義という時代遅れの勢力の票をも掘り起こしたのだ。

その背景には、2040年頃までには少数派に後退することが確実視されている米国白人層が、8年間続いたオバマ政権の下で、不満をためていたことがあるだろう。筆者の友人(非白人)などは、これを「白人の最後の抵抗」と呼んでいる。

しかしこうした動きは、欧州でも米国でも、有力なスポンサーを得るに至っていない。米国共和党の「茶会」派は、実業家のKoch(コーク)兄弟から資金の支援を得て勢力を拡大したのだが、彼らはトランプ政権の下で法人税の大幅削減を勝ち取っている。

これに比べて、白人至上主義派を支援しても、大した見返りが期待できないどころか、むしろ負担になることが明らかなので、スポンサーがつかないのだろう。

それに、白人至上主義者の暴力的言動は、白人の立場の後退をかえって速め、いっそう確かなものにしてしまうだろう。

1991年夏、ソ連の保守派は、連邦の解体を防ごうとしてクーデターを起こして失敗、かえって解体の動きを速め、かつ決定的なものにしてしまった(1991年末にソ連は消滅)。

社会の動きを止めようとして暴力を振るえば、それはブーメランのように保守勢力を叩くものになりがちなのだ。

とすれば、今の欧州、米国で起きていることは、多民族化、価値観混在への過程での陣痛のようなものなのかもしれない。そのような社会をどのように統治して行けるのか、筆者には想像がつかないが。

 

日本はどうか?

日本では敗戦以来、いわゆる右翼は、大きな勢力とはなっていない。敗戦で、国粋主義は米占領軍に抑圧されたし、国民の多くが反戦・平和主義の主張に同調してきたことが大きい。

日本で伝統的右翼が復活するとしたら、それは世論が反米で盛り上がった時くらいのものだろう。中国、ロシアを非難するだけで、米国については何も言わないのでは、十分な国粋主義にならないからである。

バノンは前記のように昨年12月来日したが、目的は日本の右翼勢力を支援するためと言うより、むしろ資金集めの瀬踏みだったのかもしれない。右翼と交流したとの報道はない。

一方ロシアは、昔ソ連が左翼政党を支援したのとは正反対に、右翼との関係を強めている。2015年3月には鳩山元首相が、民族派の新右翼「一水会」の木村三浩代表とともにクリミアを訪問したとの報道がある。しかし日本ではほかの多くの右翼が反ロの建前なので、食い込むのは並大抵のことではない。

米にとっても、ロシアにとっても、日本の右翼を「世界極右連合」に引き込むのは、なかなか難しい。

ところで、欧州や米国の白人至上主義、あるいは反移民の連中が現地の日本人を襲うことはほとんど起きないだろうが、日本は「名誉白人」の待遇を受けて醜く喜ぶのではなく、過激な人種主義はたしなめる(そして自戒する)立場を取るべきだろう。