翁長雄志・前沖縄知事の「膵臓がん手術」について医師たちが思うこと

もしも彼が政治家でなければ……
週刊現代 プロフィール

膵臓がんは、がんの中で最も発見、治療が難しいとされている。前出・吉田医師が解説する。

「膵臓は胃の裏側にありますので、非常に検査が難しい。症状が早い段階で出ればいいのですが、膵臓は『沈黙の臓器』と呼ばれており、自覚症状が出たころには、すでに末期状態という例が少なくありません。身体の奥にあるので、手術も非常に難易度が高い。とてもやっかいながんなのです」

「虎の門中村康宏クリニック」院長の中村康宏医師もこう話す。

「膵臓がんの標準的治療法には、手術、化学療法、放射線治療の3つがある。がんの広がりや全身状態などを考慮し、最終的な治療法が決められます。しかし、元々、膵臓がんは治る可能性が低い病気と言われているのです」

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'17年の全国がんセンター協議会の調査によれば、膵臓がんの場合、ステージⅡの5年生存率は18.3%。前出・中村医師が続ける。

「一般に膵臓がんの手術適応境界はステージⅢとされています。ステージⅣになっているときは、他の臓器などに転移しているため、一般的には手術をしても手遅れだという認識です。

翁長知事の場合、ステージⅡで手術を行ったというのは、ガイドライン通りではあるのです。

しかし、そもそもの問題として、膵臓がんのステージ診断は非常に難しい。外科手術と放射線治療を比較した研究の中で、術前にステージⅣaとされたがん81例中39例が、過剰あるいは過少な病期診断をしていたという例がある。術前画像では正確に進行度診断をするのは非常に困難なのです。

そういったなか、体力を消耗する手術をする価値がどれだけあるかは、判断が分かれるところでしょう。翁長氏のケースでは、仮に私が主治医だった場合、手術をしなかった可能性はあります」

 

翁長氏は手術後、肝臓にもがんが転移していたことが判明している。進行度の診断が誤っていたことは十分に考えられる。手術の難しさ、そして進行度の診断の難易度などから、海外では手術が主流の治療法ではない。

慶應大学病院腫瘍センター・特任教授の西原広史氏が話す。

「たとえば、米国の膵臓がんの治療ガイドラインでは、推奨治療の1番目は『治験』なんです。つまり、従来の治療はいずれも延命効果が乏しいため、何かしらの治験薬に賭けるほうが生き延びるチャンスが大きいという考えです。

日本ではできるだけ膵臓がんの根治手術を行おうとしますが、欧米ではステージⅠのような超早期でもない限り、手術はしません。

膵臓がんの手術は、術後の膵液漏などによる腹膜炎の発症リスクなど、合併症が原因で死亡するケースも少なくないからです」