脳にチップを埋めた兵士出現…「サイボーグ化」技術はここまで進んだ

「バイオハッキング」が拍車をかける
塚越 健司 プロフィール

さらに水族館の人気者、イルカも軍事的に利用されることの多い動物である。イルカの知能が優れていることはよく知られているが、アメリカでは1960年代から軍がイルカの研究を行ってきた。イルカを訓練することでダイバーを救助したり、水中の機雷探知にかけては機械を遥かに上回る能力を持っており、他にも基地の警護などを行っている。

また、ソ連時代に利用していたものの、その後途絶えていた軍用イルカをロシアが復活させる動きもある。実際、ウクライナで飼育していた軍用イルカは、2014年のクリミア併合によって訓練施設ごとロシアのものとなっている。このイルカたちは敵の船に爆弾を仕掛けたり、頭部に銃を装着して敵を狙い撃ちにする訓練を行っていたという。

軍用イルカは厳密に言えば直接的なサイボーグ化ではないが、訓練され、銃を装着した軍用イルカが戦争に利用されるという事実は、もっと知られるべき問題であろう。

 

サイボーグはどこまで人間なのか

様々なサイボーグ技術について参照してきたが、人間とサイボーグにはどのような差異があるのだろうか。

2012年のロンドンオリンピックにおいて南アフリカのピストリウス選手は、競技用義肢を利用したスプリンターとして、オリンピック・パラリンピックの両方の陸上競技に出場した。そこで、能力が強化されたサイボーグが人間以上の能力を有することが予想される中、いくつかのケースを法の観点から考えたい。

まずはサイボーグと物の関係だ。例えば筆者が他人から殴られればその人は傷害罪に問われ、筆者のパソコンが破壊されれば器物損壊罪に問われる。義手や義足は身体と結合した人工器官であるが、ではそれが破壊されたなら何に問われるのか。

現代の技術では義手や義足の破壊は(一部の「温かい」などの感覚を除けば)痛覚に影響を与えることはなく、「痛い」や「出血した」といった生理的機能を害するという、傷害の概念に該当しないことが考えられる(ただし最近は、一部痛覚を与える義肢に関する研究も行われている)。

では器物損壊罪に問われるのかといえば、人工器官が生活に必要不可欠な物である場合、それはすでにその人の身体を構成するとも考えられる。この場合はケースにもよるが、つけ外しが容易かどうか等が考慮され、それが人間としての身体を構成するかどうかが問われる。

これに関連して、サイボーグが凶器となり得るかという問題もある。ドイツでは空手有段者の拳が危険な凶器として扱われ得るかが議論されているというが、腕力等が強化されたサイボーグが傷害事件を起こした場合、サイボーグの身体は凶器とみなされ、量刑に差が出るかどうかが問われる。これらはサイボーグ化の度合いによっても異なるが、サイボーグ技術が新たな社会問題として問われることになる。

こうした事例は、刑法においては「サイボーグ刑法」として今後問われていく問題である。他にもサイボーグについてはやしたてることが名誉毀損や侮辱に該当するかといった、サイボーグの人格や名誉に関する問題もある。

サイボーグ技術の発展が予想される中で、サイボーグ技術を社会がどう受け入れるかが今後問われていくことは間違いないだろう。