脳にチップを埋めた兵士出現…「サイボーグ化」技術はここまで進んだ

「バイオハッキング」が拍車をかける
塚越 健司 プロフィール

「サイバーリバタリアニズム」の影響

上述の通り、現状のバイオハッカー達の実践は大きく成功したとは言い難いが、国家レベルのサイボーグ技術と同様に、民間のバイオハッカーたちは自らの技術で自分自身のアップデートを目指している。

その姿には、技術発展や創意工夫を称賛し、規制や国家の介入を拒否するハッカー思想や、サイバー空間の自由を追求するサイバーリバタリアニズムの潮流を認めることができるだろう。

ハッカーは1950年代からコンピュータに触れ、技術で世界を改良できると信じ、技術の共有(情報の自由)や秀でた能力を称賛してきた。サイバーリバタリアニズムは技術革新によって自由を促進するという、左派やリベラルとも異なる思想であるが、自らの創意工夫によって能力強化を目指す姿勢は、サイボーグ技術とも親和性がある。

ハッカーやサイバーリバタリアニズムに関わるバイオハッカーたちは、技術と自由を重んじるが故に、身に降りかかる規制の撤廃を目指す。

 

かつてハッカーたちは、漫画『攻殻機動隊』で描かれたような、サイバー空間と脳との直接リンクを望み、他者や世界と直接ふれあう「超感覚」とでも呼べるようなものを目指した。

サイボーグ技術は、近年になって突如として現れたものではなく、根底にあるハッカーやサイバーリバタリアニズムの思想と共に発展してきたと言えるだろう。

動物や昆虫もサイボーグ化する

サイボーグ技術の対象は人間だけに限定されない。動物・昆虫は人間にはない優れた能力を持つが、それらをサイボーグ化することで様々な用途に利用されている。

バッタは大群で移動していてもバッタ同士でぶつかることがない。それはバッタの感覚が非常に鋭敏であり、周囲の動作検知から羽と脚を動かすまでの時間が短く、衝突を避けることができるからだ。

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このように昆虫は秀でた能力があることに加えて、軽くて動きやすく様々な場所に出入りが可能なことから、人助けから軍事利用まで多様な目的で研究が進められている。

例えばワシントン大学の研究者はバッタで爆発物を探す実験を行っている。バッタは嗅覚も優れており、爆発物の匂いを嗅ぐと脳神経に仕込まれたセンサーから信号が発信されるという仕組みである。バッタであれば地雷が反応することなくスムーズな撤去が可能となる。もちろん、敵軍の存在を発見する目的等、軍事転用も可能であろう。

他にもノースカロライナ州立大学のAlper Bozkurt氏のチームは、ゴキブリの触覚や尾葉に電極をとりつけ、背中に固定した電気回路から電気を流すことで方向操作を可能とする実験を行った。

通信制御範囲を超えてしまうと操作不能となるのが課題だが、複数体のゴキブリにマイクを背負わせることで、災害現場で人を発見する救助技術の研究が進められている(人間に殺されることの多いゴキブリが、サイボーグ化されることで人を救助する側にまわるのである)。

また前述のイーロン・マスクが設立した「ニューラリンク」では、ネズミを使った動物実験が行われているのではないか、という報道もある。サイボーグ化されたネズミは人間のサイボーグ化の布石であるとみられるが、今後の展開にも注目が集まる。