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オムツ代だけで月6万……寝たきりで意識不明、父の入院費その非情

未婚のフリーランス、介護とお金の話

40代後半のフリーライターである長谷川あやさんが、「未婚のフリーランスとお金の向き合い方」について書く第三回。マンションを購入した話母のがん治療での再度のローンの話に続く今回は、介護について。がん治療のローンを払い終え、これから老後のための貯金ができると思った矢先に、父親が倒れたという。

今回はなかなか筆が進まない。過去2回は私のなかで「終わったこと」になっているが(ローンは現在も鋭意返済中ではあるが)、今回のことはまだ「進行中」で、まだ気持ちが整理できていないからかもしれない。

 

「お父さんが起きないの」

父が倒れたのは、忘れもしない、2017年8月1日のことだった。その前の2日間、「あまり調子が良くない」と言っていて伏せっていた。食事もほとんどできなかったが、7月31日の夜、「少し良くなった」と言って台所で自ら大好きなそばを茹でていた。私は目線も合わせず、「食べられるようになったんだ」といったことを言ったと思う。きちんとは覚えていない。そして、それが私が父とした、最後の会話となった。

もっと話せばよかったとか、目を合わせればよかったとか、そういうことを今でも思ってしまう。好きなものを食べて、食べ終わってから意識を失ったことだけでもせめてよかったとと思うしかない Photo by iStock

8月1日の午前10時半を過ぎた頃だっただろうか。私がある出版社で作業をしていたところ、母から着信があった。私が言葉を発する前に、母が興奮気味に言った。

「お父さんが起きないの」

「え、もう一度、起こしてみなよ」

iPhoneの向こうから、「お父さーん」と母が父に呼びかけている声が聞こえてきた。

「やっぱり起きない……」

「早く救急車呼んだほうがいいよ」

「わかった」

ぷつんと通話が切れた。すぐに帰りたかったがその日はその後も外せない仕事があった。
お昼頃、まだつながらないだろうと思いつつ、母の携帯を鳴らした。母はすぐに出た。

「病院に運ばれて、いま手術してる」

「どこの病院?」

「……わからない。聞いてみるね」

――お母さん……。

「すみません、ここ、どこですか」と周囲の人に聞いている声がする。

「◯◯大学病院だって」

家から地下鉄で2駅の大学病院だ。自転車でなら15分くらいで行ける。なるほど私が住む場所からいちばん近い急性期病院はここになるだろう。

「もうお父さん、起きてこないわね」

仕事を終え、私が病院に着いたのは15時すぎだった。手術は終わっていた。
「さっき、先生から説明してもらったんだけど、脳……なんとかだって」

それまでの流れに加え、明らかに頭に手術した形跡のある父を見たら、脳に異常があったってことは聞かなくてもわかるわ! とツッコミを入れたくなったが我慢した。母が携帯を忘れずに持ってきただけでも褒めてあげなくては。

心原性脳梗塞だった。梗塞の範囲も広かったため、血栓を溶かす血栓溶解療法は使えず、減圧術(脳梗塞になった脳の一部を除去し、頭蓋骨を外す手術)を行なったと説明を受けた。説明のなかで、「発見が遅かったので」と医師が少し言いにくそうに、でもきっぱりと言った。一緒に住んでいるのになぜもっと早く気付けなかったのかと、医師が疑問に思っているのははっきりとわかった。

いつも父は7時前後に起きていたが、このところ具合が悪かったこともあり、いつもの時間に起きてこなくても不思議には思わなかった。医師に、意識が回復する可能性を尋ねたが、可能性はないことはないが難しいだろうということだった。