日本を支配する町? 「田布施システム」の謎を安田浩一が解き明かす

安田浩一ミステリー調査班 前編
安田 浩一 プロフィール

安倍総理も「田布施」関係者?

たとえば、田布施のような小さな町から、たしかに二人の総理大臣が輩出されている。

岸信介と佐藤栄作だ。

しかも現首相の安倍晋三(岸信介の孫)もそこに連なる系譜ということであれば、なにやら目に見えない力が働いているかのように思えなくもない。

 

さらにネット上では難波大助(テロリスト)、宮本顕治(日本共産党元委員長)、松岡洋右(外交官)、鮎川義介(日産コンツェルン創業者)、河上肇(マルクス主義学者)なども"田布施人脈"として名が連ねられている。

こうなると思想の左右を問わず、幅広く”システム”が機能しているようにも感じられるが、実際は、ここに名を挙げた者のなかに田布施出身者はいない。

宮本、難波、松岡は光市出身、鮎川は山口市、河上は岩国市の出身だ。

これをもってしても「田布施システム」が相当に乱暴な陰謀論であることは明確だろう。

歴史家の多くも「明治天皇すり替え説」を否定している。

だが昨今、またぞろ田布施が注目されてきた。

8月26日、安倍首相は自民党総裁選への出馬表明を鹿児島市内でおこなったが、その際、「しっかり薩摩と長州で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」と語った。

陰謀論者は色めき立つ。総理が「長州」を口にしたのは、やはり田布施を意識したメッセージなのだ──と。

郷土資料館の見解

町の中を車でまわった。

駅前を少し離れれば長閑な里山の風景が広がる。町の大半は山林と田畑だ。

二人も宰相を輩出していながら、利益誘導はそれほどなかったのだろう。道路も公共施設も、いたって地味だ。

ましてやユダヤ金融資本の影は一片すら視界に飛び込むことはなく、同分野で目立つのは地元の農協資本くらいのものである。

少なくとも外形上、日本を動かす巨大なシステムを確認することはできない。

商店主に、農作業中の人に、「田布施システム」について尋ねてみても、多くの場合、ちょっと考え込み、曖昧に笑い、そして最後に「面白い話やねえ」と気のない言葉が返ってくるだけだ。

町の郷土資料館でも、私を案内してくれた担当者は同じような反応を見せた。

「孝明天皇が若くして(35歳)亡くなった、ということで、いろいろな憶測が生まれることになった、としか言いようがないですよねえ。それ以上はなんとも」

郷土資料館には時折、県外から「田布施システム」について知りたいという者が訪ねてくるという。もちろん同館に、それに関する資料はない。

田布施郷土資料館で開催されていた「佐藤兄弟展」

「まあ、まともに取り合う話ではないと思いますし……」

対応には苦慮しているようだった。