母校凱旋時の金農野球部。本文内の写真と合わせてどうぞ 撮影/児玉大祐

「金農野球部と吉田輝星」魅力の秘密~秋田県出身ライターが解説

吉田投手のアカウントや言葉の意味は…

文章をなりわいにする人間として本当はルール違反かもしれません。ですが今回、“金農フィーバー”を追いかける週刊誌編集者の友人に「ギャラはけっこう、秋田愛!」と宣言して、進んで秋田県民のコメント取りをし、カメラマン紹介も協力していました。友人編集者の「そもそも金足農業って、秋田のどこにあるわけ? 住所を見ても全然、想像がつかないんだけど」という発言に、(東京の人間にとってはそこからかぁ~)と驚愕しつつ過ごした甲子園決勝をまたいだ1週間。そして今に至る「金農(かなのう)ブーム」と「秋田あるある」そして「秋田的に見る吉田投手分析」をお届けします。

 
100年目の甲子園を盛り上げた立役者・秋田県代表の金足農業高校。エースの吉田輝星投手は日本選抜のU18チームに所属し、9月5日の対韓国戦での登板が濃厚だ。「金農(かなのう)」は日本全国を盛り上げたが、秋田県での愛され方は、尋常ではないという。秋田県出身のライター、桜井美貴子さんの分析によりその理由を紐解いていくと、吉田投手の言動などにすべて納得がいく。
全日本U18チームでの金農・吉田投手 撮影/濱﨑慎治

試合の日は町から人が消えた

結局、その週刊誌誌面では使ってもらえなかった、県民の金農愛溢れるコメントを最初に紹介します。私の家族の友人の友人の友人……で瞬く間に繋がった、決勝戦終了直後の感想。秋田市内在住の会社員、大川裕輝さん(33歳)です。

「甲子園の試合は全戦観ました。職場で、実家で、出先で。そして今日は自宅で家族全員で応援しました。金農の試合が始まると平日の真っ昼間でも道路から車も人も消えて、ゴルフ場もスーパーもコンビニも人がいなくなりました。職場の電話も鳴らない。みんな、家や会社やどこかでテレビ応援。こんな経験、初めて。自分だけでなく秋田県全体でこんなこと、誰も経験したことがなかったと思います。

コンビニではレジでお客さんと店員が金農の試合結果で盛り上がっている光景もよくありました。見知らぬ同士でも『カナノウ、勝ったすな』『すげがったすな』で会話が始まる。金農が勝ち進む間中、ハッピーオーラに秋田県民は包まれていました」

今回、金農ナインが叫んでいた「元気の素はあきたこまち!」は、おかずなしで食べられるくらいおいしい米どころ秋田のブランド米で、美人のほまれ高い小野小町にちなんだネーミングです。「こまち」といえば「秋田美人」。というわけで秋田の女性は、他県人に対してわかりやすい秋田ブランドを持っています。だけど男にはそれがない。じゃあ、秋田の男たちは何に人生の価値を見いだすか。

それは、家族と地域、です。

金農は、「秋田の縮図」ともいえるんです。

秋田は貧富で評価しない

レギュラー全員が秋田県内出身の、それも3地区の中学からお互い誘い合って金農に進学したという話。吉田輝星君のお父さんも金農出身という話。

私の時代からずっと、金足農業やその他、農林高校の生徒といえば、強いスポーツ部一直線で入学する子、まじめな農家の息子たち、そしてやんちゃなヤンキーの構図でした。

伝統的に父性が強い校風で、OBの母校愛が強く、父はたいがい息子を母校に行かせたがる。
「そもそも農業高校ってどんな位置づけ? ダサくないの?」という友人編集者の再びの質問に、(また、そこからか~)と思いましたが、はい、ちっともダサぐないです。

持ち家率&三世代同居率が全国トップクラスのわが秋田。秋田に生まれ育ち、結婚して実家を継ぎ、親の面倒を見る。脈々と受け継がれる秋田の男たちの人生は、地元に就職できるからなしえること。秋田県には全国的に知名度の高い大企業がありません。就職の王道=安定職業は、農協、銀行、役所勤めです。金農は、これら安定企業を筆頭とした就職率は100%。そして金農のめざす生徒像は、『明るく思いやりを持って地域に生きる金農生』。県民にとって、「農業高校」は人生設計のメインストリームといっても過言ではないでしょう。