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日本論の”新しい古典”『タテ社会の人間関係』はこうして生まれた

現代新書 特別エッセイ「自著を語る」
日本の社会構造を鋭く析出し、日本型組織の理論を提示した、中根千枝氏『タテ社会の人間関係——単一社会の理論』。1967年に刊行されてから50年が経過し、日本国内では117万部を記録、さらに計13ヵ国語に翻訳されている。
日本論の「新しい古典」となったこの歴史的なロングセラーは、いかにして生まれたのか。刊行の経緯を語った中根氏のエッセイを特別掲載する。

50年を超えるロングセラー

本書の初版が刊行されたのは1967年ですから、すでに46年が経過したことになります。このように長い間読み継がれるロングセラー(2013年11月時点で122刷)になるとは、当時は思いもよりませんでした。

もともと本書は、1964年『中央公論』5月号に掲載された「日本的社会構造の発見」という論文をもとに作られた作品です。

編集部からは、「何でもよいから書いてほしい、枚数も自由」と頼まれたので、当時、日本に帰国したばかりの私は、社会人類学でいう「社会構造」の観点から、日本社会を解析する論文を書いてみることにしました。

当時の『中央公論』に掲載されていた論文は何というかペダンチックで、私の文はかなり趣を異にするものでしたから、「書いてはみたものの、誰が読むのだろう」と思っておりました。

ところが、この論文が世に出ると思いのほか反響があり、「ぜひ、この論文を外国語で翻訳したい」という要望が相次ぎました。

しかし、日本語で書いた論文をそのまま外国語に翻訳すると、不自然でわかりにくいことを知っておりましたから、こうした申し出はすべてお断りしました。

同時に、複数の出版社からも、書籍化の申し出がありました。いずれも掲載論文を平易に改稿したうえで出版したいというものでしたが、当時の私は多忙を極めていたため、そのような時間はないとお断りしました。

 

もとの論文を、大幅に加筆修正

そんな中、論文掲載から他社に遅れて書籍化を打診してきた講談社の担当者だけが「論文をそのまま新書にしたい」というので、現代新書で刊行することを同意したのです。

しかし、いざ1冊の本として出版するとなると、説明が不十分な箇所に加筆したり、あちこち手を入れたくなってきます。結果、加筆の赤字が増えてしまいました。

原稿をとりにきた担当者は、「こんなに加筆があるのは困ります。もとの形に戻してください」というので、「自分で納得できる形にしたのですから、それを受け入れていただけないのであれば、出版を取り止めます」とお答えしました。

困った担当者は会社に戻って上司と相談したのでしょう。翌日には「先生のご希望どおりにします」との返事がありました。

意外に思われるかもしれませんが、本書のタイトルである「タテ社会の人間関係」という用語は、本書のなかでは一度も使われていません。

タイトルを考えたのは、担当編集者でした。

事前に、タイトルを決める相談で、私が挙げたキーワードは、「社会」「タテ」「組織」「構造」「人間関係」などで、これらのなかからタイトルを考えて欲しいと依頼しました。こうしたことは専門家に任せたほうがよいと考えたのです。

こうしたキーワードを組み合わせて誕生したのが「タテ社会の人間関係」でした。本書が刊行されて以来、「タテ社会」という用語が流布したことを思えば、このタイトルが秀逸だったことがわかります。

本書が刊行されると、様々な組織から講演依頼が殺到しました。宗教法人、霞が関の官庁、外資系企業、はては警視庁からも「我々の組織は、先生の本に書かれているとおりです。ぜひご講演を」と要請がありました。