詳細は9月中旬の日本社会学会で報告する予定だが(「ネット利用による意見・態度の〈分極化〉を検証する」)、先の調査データを別の手法で分析しても、「移住外国人にも日本人と同じ権利を付与すべきか」といった排外意識が大きく関わってくる設問では、ネットをよく利用するほど、賛否が両極に分かれる(分極化する)という傾向が、やはり確認できた。
その一方で、原発再稼働や憲法9条改正など、右派と左派で意見が分かれやすいイシューであっても、排外意識との関わりが比較的薄い設問については、ネット利用が賛否の分極化につながる傾向は認められなかったのだ。
さらに研究を進めないとはっきりしたことは言えないが、ネットが分極化をうながすのは、右派か左派か、保守かリベラルか、という思想やイデオロギーというよりも、敵/味方感情なのではあるまいか。どうもそんな気がしてならない。
排外主義運動は、日本人の敵を設定し、それへの排斥感情を煽りたてる典型例だ。世論喚起の炎上商法は、それにうまくフィットする。冒頭に挙げた杉田氏はLGBTを、長谷川氏は「自業自得の人工透析患者」を、日本社会・国家へのフリーライダーに位置づけることで、敵愾心に訴えかけていた。そこには、何を敵とするかの違いはあれ、同型の構図がある。
左派(リベラル)の側は、社会から排除すべき敵を自ら設定するわけにはいかず、どうしても後手にまわる。さらには、こうした敵/味方構図そのものへの反発によって、右派に敵対する立ち位置をとらざるをえず、逆説的にその構図にからめとられてしまう。
そこからもたらされるのが、右派と左派の折りあいのつかない感情的対立であり、穏健派が存在感を失う世論の分断状況である。
さて、過日、安倍首相に対して改憲国民投票を来年の参院選までに実施するよう、麻生派から提言がなされたという。
憲法9条改正問題は、その気になれば「日本の敵」を具体的に匂わせながら、排外感情に訴えかけやすいイシューだ。国民投票が現実に迫ってくれば、世論喚起の炎上商法を巧みに用いる政治家や論客も増えてくるかもしれない。
はたして私たちはその陥穽を避けて、民主主義的合意形成に必要な冷静な議論を、最低限なりとも行なえるだろうか。
9条改正か否かとともに、私たちが差し迫って問われているのは、そのことである。