9月3日、経団連の中西弘明会長が2021年初入社以降の学生を対象とする就職活動のルールを廃止する可能性に言及した。夏休み前に2019年卒業の学生たちによる「就活」はほぼ終わり、2020年卒業の就活がすでに始まっているが、「就職」「働き方」への意識があきらかに変化しつつあるといえるようだ。

フリーライターの雨宮紫苑さんは「凝り固まった日本の就活」そのものが嫌で、22歳のとき、大学卒業後ドイツに移住した。そして、そこで大きな壁に直面し、日本の就職の長短を目の当たりにした。そこには、まさにいま日本が変わろうとしている「就職の意識」へのヒントが込められている。

絶対に日本を出てやる

2014年9月。22歳のわたしは、大きなスーツケースとたくさんの夢を抱えて、フランクフルト空港に立っていた。

目的もないのに就職する人たちとわたしはちがうんだ。わたしはここドイツで、きっと大きなことを成し遂げる……そう、思っていた。

「絶対に日本を出てやる」と思うきっかけになったのは、就活だ。

みんなが同じ黒髪にして同じようなスーツを着ていることや、勉強する場である大学が就活を公欠扱いするのに違和感があった。

ダメ押しは、『就活メイク講座』だ。チークの入れ方ひとつで印象が変わる? くだらない。わたしはそんなものに流されない。ドイツに行って、やりたいことをやってやる。

メイクが好きな人がメイクをするのはいいけれど、就活向けのチークの入れかたとなると拒絶反応が…… Photo by iStock

しかし意気揚々とドイツで暮らし始めたわたしは、ドイツで思いがけず挫折することになる。

同調圧力から解放されたつもりが

ドイツの就活システムは、日本とはまったくちがう。スーツを着なくていいし、自分でアポを取るのが普通だし、履歴書を手書きなんてありえない。「同調圧力や時代錯誤な制度から解放された!」と感激した。

しかし、現実は甘くはない。

ドイツでは新卒一括採用がなく、欠員募集が一般的だ。だから、大学を卒業したばかりの25歳もすでに2年働いたことがある30歳も、同じ枠に応募することになる。良くも悪くも『外国人』という区別もしない。

そのため学生は、在学中や卒業後、インターンシップをするのが一般的だ。企業が学生にも職歴を求めることから、大学卒業の要件に4~6週間のフルタイムインターンシップを組み込んでいる大学も多い。

求人の仕事内容がはっきりしているので、募集要項には「大学で〇〇を学んだ、もしくは職業教育を受けた人」という限定があり、大手ではさらに「平均の成績が2.5以上」「インターンシップ経験者優遇」という条件がついてくる。『新卒』というだけで、ポテンシャルを信じて内定をくれる企業なんてない

また、ドイツでは、キャリアアップしたければ大学院や高等職業教育などを社外で受けて転職するのが一般的である。日本のように『企業が育てる』という概念がないのだ。

大学を出ているし、ドイツ語は割と話せるし、なんとかなるだろう。そう思っていたけれど、サービス業でアルバイトをしただけの文学部卒業のわたしは、そもそもフルタイム勤務の求人の募集条件を満たせなかった。応募できるのは、インターンシップだけである。

初めて味わう「できない子」

インターンシップをする気がなかったわたしは、ドイツで改めて大学に入学した。勉強は好きだし、ワーキングホリデービザが切れる前にどうにかしなくてはいけなかったからだ。

しかし、そこでもまたうまくいかなかった。

日本では「しっかり者」だったはずのわたしが、いきなり「できない子」になったのである。

授業は理解できた。しかし議論となると、まったく発言できない。チームワークでは簡単な仕事しか回してもらえない。「大丈夫?」と聞いてくれる優しい人もいたけれど、わたしはいつもそれを聞く優等生側だったから、そういう優しさが痛かった。

もともとビザ目的でたいした目標もなく入学したわたしは、大学に行くのをやめた。

そうすると、ちゃんと就活をして、ちゃんと仕事をしている友人たちが、急にうらやましくなってきた。そんな嫉妬をする自分がみじめで、情けなかった。