「紙と小説に未来はあるのか」塩田武士と武田砂鉄が語りつくした

『歪んだ波紋』特別対談
塩田 武士, 武田 砂鉄 プロフィール

そろそろ気づこうよ

塩田: 僕はアニメの取材をしてるんですけど、ヒット作を連発してる制作会社の社長さんが、とにかくすごいんですよ。アニメの制作委員会方式って、ヒエラルキーがあって、制作会社って権利関係に不利で、どうしようもないところにいる。その社長はテクノロジーでそのヒエラルキーを変えようとしている人で、実際に見せてもらった技術でびっくりするものがたくさんあった。取材後のメールのやりとりで、その方中堅世代なんですけど、最後に、とにかくこれから、僕らより上の人が、確実に若い人の障壁になる、と。

武田: 絶対なりますよね。

塩田: その中間である僕たちは若い世代をバックアップしないとダメですね、というのが〆の一文でした。ちゃんと見てる人って、そういうものへの警戒心って強いですよね。

武田: 若い人は今、影響力で人を判断しがち。たとえばツイッターのフォロワー数とか。ホリエモンのような人があれだけ受け入れられる理由は、彼らは影響力を強化して、可視化し続けているからです。オレと一緒にやれば、こんな大きいことできるぞ、と。どういうことを考えているかよりも、影響力が優先される。大学生と話すと感じますが、それが彼らのファーストプライオリティになっている。

 

塩田: ホリエモンの書いたものや発言は、全てが慧眼に見えるマジックがかかっている。「実は」みたいな、価値観の反転のようなものを、断定口調でシンプルに言う。価値観の反転でもなんでもなくて、それ逆張りしてるだけですやんってケースには気づかないと駄目です。反応してしまう人数が大きいから、正しいかもしれないと思ってしまうことがある。やはりひとりひとりのジャーナリズム。真贋の見極めや情報の取捨選択をすることが大事だと思います。

武田: たとえば学生に向けて、ジャーナリズムを学んでください、と言う。でも彼らの興味からしてみたら、もう、大きなメディアに入ってうまくいく時代ではないから、自分で会社を立ち上げたり、あるいは勢いのあるベンチャー企業で働いて、とっとと成長したいと思っている。その時に、「ジャーナリズム講座」と「インフルエンサーのノウハウ講座」のどちらに行きたいかといえば後者になる。でも、インフルエンサーのノウハウ講座って、当人のファン獲得戦術でしかなかったりする。どうしたらいいんでしょうね。

塩田: すぐに結果が出るものとか、歯切れのいいものが、いかにペテンが多いかという検証を続けていくことです。そろそろ気づこうよって。日本を褒め続けているとか、そろそろ飽きてくれよという。

仮想通貨だってビジネスマンは東京通り越してシンガポールに行っているし、アニメも世界に誇る文化とか言ってますけど、5~6人に話聞いただけで、ジェンガみたいやなってことに気づく。わかりやすくて気持ちいいものを検証するのは、雑誌とか小説のひとつの軸でもいいのではと思いますね。

──それをオールドメディアがやると、オールドメディアが何言っちゃって、みたいになるんですかね。

武田: この半年~一年ぐらい、政権が倒れてもおかしくない事案が毎月のように出てきました。でも、なぜか、乗り切ったぞ、という現在にある。2年後にはオリンピックがあるし、これから、小説家も含め、いわゆる文化人とされる人たちがどんどん変節していくと思う。あれ、反対してたはずだよね、って。個人的にいやらしくチェックしていきたいと思っていますが、小説家は、五輪を持ち上げてくれ、って要請を受けるし、その空気感にどんどん加担していくはず。

『日本の気配』のなかでも引用しましたが、『反東京オリンピック宣言』という編著を出した神戸大学の小笠原博毅教授が「どうせやるなら派」という言葉を使っています。確かに色々と問題はあったけど、どうせやるなら賛成して参加しましょうよ、という空気。これって今の政治的な事案など、様々なところで言えると思うんですね。

「加計学園、あれ、よくないけどさ、でも安倍さん、よく頑張ってんじゃん」という謎の評価。オリンピックはまさにそのど真ん中。せっかくなら盛り上がろうよ、となってきた。そこへ向けて、ひたすら文句を言っていると、「なんかイヤなことあったの?」「性格悪い!」なんて言われる。それでも言い続けようと思います。オリンピックに対する批評性ってことを考えると、もはやネットのほうが持っているような気がしますね。

あと2年で開幕って段階の新聞を読み比べていると、とにかく礼賛方向です。よく知られているように、大手新聞は軒並みスポンサーになっているからでしょうけれど。

塩田: やっぱり新聞は雛形なんです。ワールドカップの周辺取材みたいなことをしたことがあるんですけど、そういった「季節もの」とか「イベントもの」には、めちゃくちゃ弱くて、とにかく雛形を踏襲する。それは記者クラブで、おい、あいつおもしろいやつ見つけてきたぞ、うち載ってないやないか、というコップの中の争いなんですね。根本を問うという癖がついてない。

武田: たとえば、どの新聞のどの部署でもいいんですが、「やばい、これ、オリンピック開催時の熱中症やばい、そもそも不正だらけだったし、もう、やんなくていいんじゃないか」と気づいたとき、まず誰に話にいけば記事化する見込みがあるんですか(笑)。

塩田: 熱中症だったらたぶん通ると思うんですけど……。

武田: じゃあオリンピック返上しろ、って書きたかったら?

塩田: デスク会議ではねられるかもしれないですね。各部署にデスクがいて、たとえば社会部でそういう記事を作ろうとすると、経済関連で結びつきのあるところが、余計なもん書くなよとなって、直接言わないにしてもつぶされる。丸テーブルの会議で消えていくのは、容易に想像できます。

武田: すぐダメになるじゃないですか(笑)。

塩田: 広告がまず怒るし。広告というか企業がオリンピックにすごくプラスイメージをもっているから、乗っからなかった時の損失はかなり大きいですし。ほんとにシャレならんぐらい新聞社はお金ないので。電子も軒並み失敗しています。前の会社の先輩もどうしていいかわからないような状況で、やりようがないって言ってました。その中で、オリンピックみたいなほんとに大きいものに反対しようとなったら、その社の方針ぐらいにならないと、ちょっときついですね。