黒鉄: テレビでもアメリカのホームドラマがたくさんありましたね。だいたい庭付き、プール付きの豪邸に住んでいるのですが、思い返すと、旦那は普通のセールスマンだったりして、そんな設定は無理があるだろうと。でも当時は、確かに憧れだったし、ひょっとするとあそこから日本人の退化か始まったのかもしれません。
日野: その退化、今もどんどん進行中のような気がしますが、どうすれば歯止めをかけられるのでしょうか。お二人のお知恵を拝借したいところです。
島地: 教育、ここに尽きるんではないでしょうか。ずっと中学校から英語を勉強しているのに、国民のほとんどが英語を話せないなんて、今の教育は異常ですよ。
黒鉄: だからといって、小学校から英語を教えればいいというものでもない。私は、漢文をしっかり教えたほうがいいと思う。
島地: それは同感ですね。明治の頃は、ちょっとした家ならおじいさんが子供に漢文を教えるのが珍しくなく、小さい頃から別の言語に接しているから、英語をはじめ西洋の言葉をすんなり吸収できた部分があるでしょう。
黒鉄: ヨーロッパは今でもラテン語を教えていますが、それは、古い文献や資料を読むにはラテン語が必要だから。日本でも、漢文の基本を身につけた上で、歴史や外国の言葉を学ぶようにしたほうがいい。
もともと日本は、外来のものを柔軟に受け入れ、咀嚼し、より出来のいいオリジナルをつくるのに長けた国です。その素養の一つが漢文であり、これこそが今の日本の教育に欠けているものだと思います。
島地: 確かに、ウイスキーの世界では、今やジャパニーズウイスキーの評価が世界的に高く、ここでは日本人の特質が受け継がれています。
日野: なるほど。確かにそうですが、評価と同時に値段も急上昇しています。注文は控えめにしていただけるとありがたいです。
黒鉄: えー、もう一杯いこうと思っていたのに。
島地: 最後の最後にそんな話を持ち出すなんて、やはり『もはや、これまで』でしょうか。
黒鉄: 嘆かわしい……。最終回なんだから、最後にちゃんと乾杯しないとしまらないでしょう。新しいタバコに火を点けたところなのに、グラスが空では手持無沙汰だなあ。
日野: わかりました、もう、仕方ないな。ご自由にどうぞ。
島地: それでは、お互いの健康を祈って、最後にもう一杯。そしてもう一服といきましょうか。スランジバー!
黒鉄: 次は、再会を願ってもう一杯。
島地: いいですね! やはり黒鉄さんを最後のゲストに呼んで正解でした。
〈了〉
構成:小野塚久男/写真:峯竜也/撮影協力:Panacee