若者が「朝日新聞ぎらい」になった謎を考える

共産党が保守で自民党がリベラル?
元木 昌彦, 橘 玲

夏の甲子園だって…

元木:これまでのリベラル派の代表として朝日新聞が挙げられていますが、当の朝日の人たちのこの本への反応はどうですか。

:直接には聞いてませんが、朝日新聞社のビルにある書店ではすごく売れているそうです(笑)。やっぱり、「なんでこんなに嫌われるのか」知りたいんじゃないでしょうか。

私は、世界は「右傾化」しているのではなく、人々の価値観はどんどん「リベラル化」していると考えています。そんな中で、言行一致したリベラルは社会を変えていく大きな力を持つことができます。逆に自分はぜんぜんリベラルではないのに、権力批判のときだけリベラルになるから叩かれるんです。毎月「朝日ぎらい」をやっている雑誌がたくさんあるのは、その主張に一定の根拠と説得力があるからだと考えなくてはなりません。

元木:われわれの雑誌の世界では、朝日批判は売れる。この本が『読売ぎらい』では売れません(笑)。

:一つのメディアを叩く雑誌が三つも四つもある国なんて日本以外ないですよ。それだけ戦後民主主義における朝日新聞の権威が大きかったということでしょうが、すごく不思議な現象ですよね。

 

元木:私が雑誌をやっていた頃の朝日新聞叩きと、今のバッシングは違ってきていますね。当時は朝日の権威や上から目線の朝日文化人的なものを批判していましたが、いまは嫌中・嫌韓と一緒で、橘さんの言う「日本人アイデンティティ主義」からの批判になってきていると思います。

:ネットでの朝日批判の定番は「捏造」と「反日」です。これは要するに、右派論壇がつくってきたステレオタイプの批判を繰り返しているだけなんです。「反日」という言葉が象徴するように、朝日新聞という存在自体が「日本人」というアイデンティティを逆なでするところがある。それは何かと考えると、日本人の自信が崩れかけていることが背景にあると思います。

国連は第二次世界大戦の戦勝国クラブですが、G7は植民地を持ったことのある「宗主国クラブ」で、そこにアジアで日本だけが入っているというのが、今や日本人のアイデンティティの最後の拠り所になっている。それ以前は、日本が非白人の国で唯一、経済成長に成功したというのが自尊心だったわけですが、いまではGDPで中国に大きな差をつけられ、国民の豊かさの指標である一人当たりGDPでもシンガポールや香港に抜かれ、いまや韓国に並ばれています。

経済における自尊心が大きく揺らいでいる時に、慰安婦や南京事件などの歴史問題で「日本人は過去の反省が足りない」と言われると、逆上してしまう。1980年代末の歴史教科書問題の頃から潮目が変わってきて、2000年代になってネットを中心に「日本人アイデンティティ主義」が前面に出てきた。アジアが貧しい頃は、優越感があるから、嫌韓とか反中はなかったですよね。日本人は右も含めて中国が好きだったし、韓国の保守政権と日本の保守政権はべったりだったわけですから。

元木:この間まで甲子園で高校野球をやっていましたが、朝日は「熱中症に気をつけましょう」と紙面で言いながら、夏の甲子園を強行して平気な顔をしてます。そういうダブルスタンダードが見透かされてきている。