若者が「朝日新聞ぎらい」になった謎を考える

共産党が保守で自民党がリベラル?
元木 昌彦, 橘 玲

「ダブスタ」には、もううんざり

元木:安全保障政策やトランプへの盲従には首を傾げます。アベノミクスにしてもうまくいってはいないと、私は思いますが、次々に打ち出すスローガンの立て方はうまい。

今、世代間戦争のように言われている年金問題ですが、この責任は一に厚労省の先見性のなさにある。先日の朝日新聞が書いていましたが、若者世代と高齢世代が話し合ってどうこうする問題ではないと思います。

:それは無理ですよ(笑)。若い人たちと話をするとみんな「僕たち、どうせ年金もらえないんでしょ」と言います。彼らは高齢者を批判しているのではなく、「年金制度が破綻して、どうやって生きていけばいいのか」を聞いているわけです。その問いを無視して、全共闘世代の高齢者が国会前で気分よく「民主主義を守れ」と叫んでいるのが、彼らの一番の不満なのだと思います。

 

元木:よく言われるのが、北欧のように税金を高くして、その代わり働けなくなったら国が全部面倒をみましょうという制度に変えたらいいということです。しかし日本のように、アップした消費税を社会保障に使うと言いながら、ほとんどがゼネコンへ流してしまうようなことをやっていると、国民の合意を取り付けるのは難しいですね。

:少子高齢化なのだから、現役世代が退職世代に仕送りをする賦課方式の年金制度が維持できるはずがありません。同世代の中で面倒を見る制度に変えるべきだ、というのも言われましたよね。60代、70代でも裕福な人もいれば、貧しい人もいるわけだから、世代内で所得移転すれば世代間対立はなくなります。一理ありますが、1000兆円の借金を抱えながらこのような大改革を行うのは不可能でしょう。

元木:年金ではなくベーシックインカム(BI)にしたらいいという議論がこのところ出ていますが、橘さんは、BIはユートピアではなくデストピアになる可能性があると言っていますね。

:BIで一律一人毎月20万円受給できるとしましょう。そうなれば、世界中から貧しいひとが殺到するに決まっています。日本人と結婚して子どもを生めば、そのたびに毎月20万円入ってくるのですから。BI推進派の人たちは、世界には一日100円以下で暮らしている人がたくさんいることをぜったい言わないですね。

財源がなければBIは成り立ちませんから、けっきょく金持ちから取り上げて貧しい人に分配することになりますが、そうなると富裕層が日本から脱出しないように監視したり、場合によっては拘束しなければならなくなる。その結果生まれるのは、「鎖国」政策をとる排外主義的な超監視社会というグロテスクな国家以外ないと思います。

元木:『朝日ぎらい』で橘さんは、「日本の社会では『正規/非正規』『親会社/子会社』『本社採用/現地採用』などあらゆるところで『身分』が顔を出す。日本ではずっと、男は会社という『イエ』に滅私奉公し、女は家庭という『イエ』で子育てを『専業』にする生き方が正しいとされてきた。日本は未だに先進国の革を被った前近代的な身分制社会」だと批判しています。

「新卒一括採用」も日本でしか行われていない年齢差別だと指摘しています。このような差別的慣行を容認しておきながら、リベラルを自称する人たちは、差別の温床になっている日本的雇用を破壊しないで、逆に「日本的雇用を守れ」と主張し、結果として差別に加担してしまっているのだと書かれています。特にマスコミの中の男女格差について厳しい指摘をしています。

:マスコミだけが男女差別をしているのではなく、日本の社会全体が性役割分業を当然としてきました。それを変えていこうと思ったら、リベラルを自称する人たちが実践する以外ないわけです。保守の人たちは今のままでいいと思っているわけだから。

それにもかかわらずこれまでリベラル派は、他人のことは批判するけれど自分のことには見て見ぬふりをしてきた。SNSなどで言論空間が大衆化・民主化して、リベラルのダブルスタンダードが強く批判されるようになったのだと思います。