警察庁長官狙撃事件「真の容疑者」中村泰からの獄中メッセージ

「オウムの犯行であるという大嘘」
原 雄一 プロフィール

それにしても、本部長からの指令が「立件はしないが、捜査は尽くせ」という矛盾に満ちた不可解なものであったのはどうしたことであろうか。何があろうとオウムの犯行という結論は変わらないことを覚悟しておけという警告であったのだろうか。

とにかく本書の著者である原捜査官が指揮するN専従班が地道な捜査努力を続ける中で、表向きの時効完成日である2010年(平成22年)3月30日が到来した。延べ48万人の労力を注ぎ込み、15年の歳月を費やした大捜査活動の締め括りとして「捜査概要」なるものを公表したが、その内容は(実在の)オウム信者数名にそれぞれの役割を被せて創作した物語といえるようなもので、これは後日、オウムの後継団体から名誉毀損の訴訟を起こされて手もなく敗訴し、恥の上塗りとなった。

 

さらに、直接の被害者である國松孝次(たかじ)元長官からも、本件の捜査は失敗であったと評された警視庁公安部の内部では、うっ積した憤懣がいずれ爆発するのではないかと予想していたところ、果たしていかにも公安部員らしい手口による造反工作が発生した。外事課に保管されていた極秘の捜査資料が大量にネット上に流出したのである。

それによって惹き起こされた衝撃の大きさは責任者である公安部長を更迭にまで追い込むのに十分であった。これも、時効完成の日に記者会見を開いて長官狙撃事件はオウムの犯行であるという大嘘を百も承知のうえで国民に告げた悪行の報いとでもいえようか。

この当時『警察庁長官を撃った男』(新潮文庫)なるノンフィクションが発行されて狙撃事件の詳細な真相が暴かれたが、今回世に出た『宿命』は、直接その捜査に専従した捜査官が意を決して公刊したものであるだけに歴史的な証言としての価値も高い。さらに、被疑者との虚々実々の駈け引きも描写されているので、物語としての面白さも十分にある。

ただし、それでもなお、なぜ警察首脳部は、この重大な狙撃事件の真相を隠蔽してしまったのかという根本的な謎は未解決のままである。