2018.09.04
# 恐竜

1902年、満洲。ロシア帝国が残した謎恐竜「神州第一龍」の正体

「恐竜大陸をゆく」第2回
安田 峰俊 プロフィール

いっぽう、ハルビンの黒竜江省博物館には後の発掘で見つかった2体のマンチュロサウルスの全身化石が所蔵されている(ただし、1体は1994年に火災で損傷してしまった)。

ほか、マンチュロサウルスの出土地付近にある嘉蔭神州恐竜博物館にも2体の全身骨格が展示されている。さらに湖北省武漢市の中国地質大学逸夫博物館にも全身骨格がある。

ちなみに吉林省長春市の吉林大学博物館にもかつてはマンチュロサウルスの名で展示されていた化石があったが、後に同じハドロサウルス科のカロノサウルス(Charonosaurus)であったことが判明し、現在はこちらの名で展示されている。

ハドロサウルス科系統図。右上にあるのがカロノサウルスハドロサウルス科の系統図。右上にあるのがカロノサウルス Photo By Wikipedia

そもそも「マンチュロサウルス」は有効なのか?

初期に発見された恐竜にはよくある話ながら、マンチュロサウルスを独立した種として認めるかについては長年の論争が存在する。

たとえば1950年代には、中国の著名な古生物学者である楊鍾健(C.C.Young、連載第1回でも登場)が、「ロシアの中央地質探査博物館に展示された模式種の標本の復元があまりに悪く、化石本来の特徴をとらえがたい」といった指摘をおこなっている。

ほか、1970年代からソ連やアメリカの研究者が、マンチュロサウルスの化石に独自の特徴が認められないことを指摘し、種として認められるかどうかに疑念を呈する論文を発表。この意見はその後も複数の研究者によって支持されている 。

マンチュロサウルスの正体は、同じく嘉蔭県で見つかったカロノサウルス(Charonosaurus)の一種に過ぎないのではないか、という指摘もあるようだ。黒竜江省博物館と吉林大学博物館は同種の化石を展示しているのかもしれない。

マンチュロサウルスは中国最初の恐竜として「神州第一龍」の異名を持つ。それゆえに、中国ではナショナリズム的な理由から持ち上げられている側面もある(なお、ここでの「神州」は日本のことではなく中国の別名だ)。

だが、「中国」という国名すらも存在しなかった清朝の時代に化石が見つかった恐竜だけに、不確かなことも実に多いのである。

〈参考文献〉
P.Godefroit, 董枝明ほか “Recent advances on study of hadrosaurid dinosaurs in Heilongjiang ( Amur) River area between China and Russia ”
黒龍江省博物館「十大鎮館之宝之七:黑龍江満洲龍」

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