マンチュロサウルスの復元図 Illustration by Getty Images

1902年、満洲。ロシア帝国が残した謎恐竜「神州第一龍」の正体

「恐竜大陸をゆく」第2回
天安門事件をめぐる5年越しの取材が結実したルポルタージュ『八九六四』が続々重版中のジャーナリスト、安田峰俊氏が挑む新シリーズ、テーマは「恐竜」。

第2回は、日本人はあまり知らないけれど中国では超メジャーな「マンチュロサウルス」の真実を掘り下げます。

中国ライターの立場から、日本では知られていない中国の恐竜事情をお伝えする本連載も2回目である。引き続き、中国の中生代古生物たちの発見史と豆知識をお伝えしていこう。

今回取り上げるのは、日本ではあまり知名度が高くないのに中国では非常に有名な恐竜・マンチュロサウルスだ。

中国で最も有名な恐竜?

マンチュロサウルスは白亜紀晩期に生息した鳥脚類で、体長8メートルほどのハドロサウルスの仲間(Hadrosauridae)だ。

草食性のハドロサウルスの仲間は東アジアや北米では比較的よく出土し、戦前に樺太(サハリン)で見つかったニッポノサウルスもここに属する。マンチュロサウルス自身、それほど際立った特徴はない恐竜である。そもそも、独立した種と呼んでいいのか疑問を呈する声(後述)すら存在する。

だが、マンチュロサウルスは中国では堂々たるメジャー恐竜としての評価を受けている。

2011年4月、董枝明(Dong Zhiming、連載第1回でも登場)ら中国の著名な古生物学者12人が中国の恐竜研究100年を記念して発表した「中国10大最著名恐竜」にも選ばれているほどなのだ。

ちなみに他の10大恐竜は、ルーフェンゴサウルス(禄豊龍)、チンタオサウルス(青島龍)、マメンチサウルス(馬門渓龍)、シノサウロプテリクス(中華龍鳥)、ホアヤンゴサウルス(華陽龍)、フアンヘティタン(黄河巨龍)……と、新旧のメジャーどころが揃った納得のラインナップである。

恐竜大王中国の児童・ホビー向け科学芸術普及組織Pecking Natural Science Organization(PNSO)が発行する雑誌『恐竜大王』のマンチュロサウルス特集号。PNSOは中国科学院や北京大学とも協力する組織だ

マンチュロサウルスが中国でメジャー扱いを受ける理由は、近代以降の中国領内で最初に発見された恐竜だからである。1930年に報告された模式種の名前は「Mandschurosaurus amurensis(黒龍江満洲龍)」、和訳は「アムール河の満洲トカゲ」となる。

いかにも大時代的な名前からもわかるように、発見は20世紀初頭だった。

ロシア軍人が報告したのはなぜか

清朝末期の1902年、満洲(中国東北部)北部のロシア国境地帯を流れる黒龍江(アムール河)流域の漁村・漁亮子付近で、川底の砂金を採っていた少数民族の漁民が奇妙な石を発見した。

これは中国の伝説にある「龍骨」ではないかと近所で話題になった。