ダークサイドの処女、セックスのシックスセンスを得る

駄青春日記~マヌケな地獄の黙示録~②
王谷 晶 プロフィール

覚えたのはショートカットキーと鉛筆の削り方だけ

バイト先の店はめちゃくちゃボロいくせに忙しく、仕事はキツかった。店長は無愛想な江戸っ子親父でたまに怒鳴られたし、まかないの刺身は旨いけどやはり若干不安なイキフンがあった。

何より、ユニフォームとして支給されたこ汚いゴム引きのエプロンとゴム長が悲しかった。でも他に働けるところは無いのだ。生魚のにおいにまみれながら、それなりに真面目に働いた。

するとだんだん亜星店長の態度もパッと柔らかくなってきて、店が暇なときには他愛もない世間話をしたり、帰り際にお菓子をくれたりするようになった。素直に嬉しかった。そりゃ嫌われるよりは好かれたほうがいい。仕事先ならなおさらだ。

いつの間にか下の名前で呼ばれるようになり、「晶ちゃんはうちの看板娘だな」なんてことも言われて照れたりした。だがこれは喜んじゃいけないタイプの好意だったのを、1年後くらいに思い知ることになる。

 

学校の方は相変わらず、バイトよりさらにやる気なく通っていた。とはいえ一応進学校だった高校時代と違ってダラダラしていても学内で悪目立ちするということはなかった。そもそも、私と同じく「名前さえ書ければ入れる」の噂に惹かれて集まってきた志がマリアナ海溝に沈んでるような連中ばかりなのだ。

少数のセンスややる気のある者は早々にその面子だけでグループを作り、セルフ特進コースのように精力的に課題をこなしていた。私はその背中を見ながら、ラノベオタク氏が身振り手振りを交えて熱演する『ブギーポップは笑わない』語りを教室の隅でぼんやりと聞いていた。

入学して3ヵ月ほどが経とうとしていた。覚えたのはMacのショートカットキーをいくつかと、デッサン用鉛筆の削り方くらいだった。

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学内にはいわゆる学食がなく、机と椅子が並べてある大部屋の休憩所があるだけだった。しょうがないので近くの私大の学食に大学生面して入り込んではなんとか安い飯を確保していたが、深海魚水族館みたいな専門学校と違って大学生はなんかみんな鰯かマグロのように気力が漲ってて、元気で賢そうに見えて眩しかった。

うちにもう少し金があって私がもう少しバカでなかったら、大学生という道もあったんだろうか。そんなことを考えながら200円くらいのまずいカレーを飲むようにして貪った。