ダークサイドの処女、セックスのシックスセンスを得る

駄青春日記~マヌケな地獄の黙示録~②
王谷 晶 プロフィール

バイトのたびにミッションインポッシブる帰宅

そこはランチ営業もしているカウンターのみの店で、大人が6、7人も入ればいっぱいになってしまうくらい狭い造りだった。どの時間帯も店長or副店長とバイト一人で回しているらしく、レジはメモ帳と海苔の缶という簡素さ。

そして、全体的にものすごくボロかった。もんっっっのすごくボロかった。建設途中の家で暮らしていた人間がここまで言うんだから信頼と実績のある掛け値なしのボロさだと思ってほしい。

店に入ると若干めまいがするのだが、それは建物が傾いていて平衡感覚が混乱するからだ。床はべたべたで黒くて早い虫がうろちょろしていて、あらゆる備品が薄汚れていた。

「うちは刺身がウリなんだよ」と小林亜星によく似た店長が胸を張る。マジかよと思ったが創業以来食中毒は一度も出していないらしい。人間ってあんがい丈夫だなと思いながら、とにかく念願のバイト生活が始まった。

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ひとまずは週に3回、夕方の居酒屋タイムから私の終電ギリギリまで働くことになった。ここで一つ問題が浮上する。寮の門限である。女子寮は夜11時が門限で、それが過ぎると管理人により鍵がかけられてしまう。当然終電まで働いて帰ると正面玄関からは中には入れない。しかし男子寮は門限なしで、いつでも玄関が開いている。となると侵入経路は一つだ。

終電で帰宅すると寮に着く頃には深夜の1時近く。辺りは暗く静まり返っているし管理人も寝ている。私は男子寮の玄関からそっと建物内に侵入すると階段を抜き足差し足で上がった。

 

3階の非常口を出て外階段の手すりを乗り越え1メートル弱ある建物と建物の隙間を飛び越えれば、女子寮側の食堂の屋上に飛び移れるのだ。そこからさらに屋上の手すりを乗り越え常に開いている女子寮3階の便所の窓から中に入れば帰宅完了だ。

小太りとはいえ当時はまだ体力も筋力もあったので、バイトがあるたびにそんなミッションインポッシブる帰宅を繰り返していた。一度でも足を踏み外していたらと思うとゾッとする。3階の高さから砂利敷の地面に真っ逆さまだ。

ちなみにしばらくするとバイト以外に飲み会などにも参加しはじめほぼ毎日のように門限をやぶるようになり、さすがに酔っ払ってスパイ大作戦みたいなマネはできないのでレンタルビデオ屋の会員証でドアの鍵を開けるテクニックを取得した。建物が古く鍵が旧式なのが幸いした(管理人にとっては災いした)。