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ダークサイドの処女、セックスのシックスセンスを得る

駄青春日記~マヌケな地獄の黙示録~②

短編小説集『完璧じゃない、あたしたち』で注目を集め、現代ビジネスでも時にユーモラスで時に鋭く世の中に問題提起をする記事を寄稿する気鋭の作家・王谷晶さんの「半自伝的」連載、待望の第2回です! ちょっとノスタルジックな冒険譚の始まり始まり〜。

*第1回はこちら https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56955

こなさなければいけないTO DOリスト

5月の暑い夜。遠くで青カンしている見知らぬ男たちの尻を見つめながら、18歳の私は自分の人生の課題を思い出していた。

ピカレスク小説の復讐者が殺す相手のリストを作るように、私には人生を先に進むためにこなさなければいけないTO DOリストがあった。目的は敵討ちではなく、大人になること。

そのトップに載っているのが「処女を捨てる」であった。セックスすりゃ即大人になると思っていたわけではない。それならもうとっくに「そう」なっていた。つまり、セックスそのものはその時点ですでにしてはいた。同性と。されど処女。まあ、たぶん処女なんだろう。童貞ではないのかもしれない。処女で非童貞。そんな感じかな。と、当時は自分を定義付けていた。

外階段でセックスしていた男たちは早々に事を終えていた。ズボンを上げて、何か言葉を交わすでもなくそそくさと建物の中に戻っていく。あれが大人の男のセックスというものか。私の時もあのくらいササッと面倒無く終わってくれればいいんだが。

 

煙草をもう一本吸って、なんとなくメランコリってしまい、携帯で高校時代の友達とちょっと話した。iモードは出始め、写メール前夜の時代で、私のJ-PHONE携帯も旧機種だったため連絡手段はショートメールより電話がメインだったし、相手によっては郵送で文通もしていた。

世界はiMacとWindows98の登場に湧いていたが、私が持っているのはワープロ(文豪ミニ)だった。インターネットには触れていたが、まだそれが自分の手と繋がっている実感はなかった。なので18歳の私にとって世界とは、目に見える範疇にしか存在しないものだった。

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ともあれ仕事だ。さすがにオシャレなカフェ店員になることは諦めたほうがよさそうだと理解したので、大衆食堂から居酒屋まで範囲を広げバイト探しを続けた。飲食店に絞ったのはまかない目当てだ。寮では食堂で朝と晩決まったメニューを食べられることになっていたが、土日や祝日はドアに鍵がかけられて茶も飲めないのだ。その間まかない付きのバイトをしていれば、とりあえず一食はまともな飯が食える。

しかし、居酒屋や定食屋やラーメン屋でも面接に落ち続けた。学校の近くで探していたのだがそのへんには他にも大学や専門学校がいくつもあって、働き手には困らない区域だったのだろう。バイト先そのものが片手で数えられる程度しかない田舎から出てきた人間には、そんなこと想像もつかなかった。

仕事は決まらない。焦りがつのり、どんな店でもいいから雇ってくれという気分になってきた。大通りから外れた場所や怪しげな路地の奥まで求人を求めてうろつき回り、そして苦闘の果にやっと、一軒の海鮮居酒屋が私を時給900円で雇ってくれることになったのだった。