マーケットが恐れる「逆イールド」は米国株暴落のシグナルなのか
イールドカーブと株価の関係を検証するトルコ通貨危機の次の話題
マーケットの話題はめまぐるしく変わる。トルコの通貨問題は解決したとはいえないが、マーケットではほとんど話題に上らなくなった。
トルコリラに投資していた人にとっては大変な状況は変らないが、やはり国際金融市場全体への波及はみられなかった。トルコ問題が世界的な金融危機の引き金になるという指摘もあったが、残念ながらそうはならなかった。
一方、このところマーケットで話題になっているのは、米国の国債市場でイールドカーブ(利回り曲線)が「フラットニング化」しつつあることだ。
具体的には2年物国債と10年物国債の金利水準がほぼ等しくなったことが、将来の米国経済のリセッション(景気後退局面)入りを示唆しているのではないかと指摘され始めている(筆者は、なぜ、2年物国債と10年物国債の利回り格差を「イールドカーブ」の代理変数にするのはよく理解できないが、どうも慣例になっているようだ)。
株価と景気の関係から考えると、これは、景気後退前に株価が暴落する局面が来る可能性が高いという指摘とほぼ同じ意味である。
金融関連のメディアでも取り上げられるようになったが、実際のマーケットでは非常に短絡的な発想による危機シナリオが実現することはほとんどない。従って、筆者は、金利差の逆転が株価暴落や景気悪化のシグナルにはならないだろうと考えている。
80年代前半以降の2年-10年の国債利回り格差と株価の関係をみると(図表1)、金利差がマイナスに転じると(すなわち、2年物国債利回りの水準が10年物国債利回りの水準を上回ることを意味し、「逆イールド」といわれる)、その後、しばらくして株価が暴落したことが実際に数回あったことがわかる。
具体的には2000年10月(逆イールドになったのは2000年2月)、2008年1月(逆イールドになったのは2006年9月)の2回である。言うまでもないが、前者がITバブル崩壊、後者がリーマンショック(の前兆)である。
一方、逆イールド状態になりながら、株価の暴落が実現しなかったこともある。
例えば、1989年1月から9月にかけて逆イールドが示現しながら、その後、株価の本格的な下落局面は実現しなかった(小さな調整局面はあったが)。さらにいえば、1994年終盤に両者の金利差が急激に縮小した局面があったが、その後の株価はむしろ加速度的に上昇した。
このように、80年代以降のデータから想定されることは、2年-10年の国債利回り格差がゼロ、ないしはマイナス(逆イールド)になったとしても、これは必ずしも株価暴落、及びその後のリセッションの先行指標になるとは限らない、ということである。
さらにいえば、株価の暴落は、そもそも株価の水準自体が「バブル」と呼ぶにふさわしい水準まで上昇していたことが大きく影響したとも考えられる。現局面の株価はバブルとは思えないので、もし、筆者が正しければ、今回の金利差の逆転現象は株価暴落の前兆にはならないことになる。