中国共産党政府にのしかかる「退役軍人5700万人」の圧力

鎮江、呉川、衝突はこうして広がった
北村 豊 プロフィール

それでも衝突事件は頻発

8月1日の八一建軍節から3週間が経過しようとしていた8月20日の夜、広東省湛江市の管轄下にある呉川市の梅録街道(注:“街道”は行政単位)でその事件は起こった。

梅録街道に所在する退役軍人経営の小さな店が商品を道路にはみ出す形で展示していたところ、通りかかった通称「城管」と呼ばれる“城市管理行政執法局(都市管理行政執法局)”の職員が公道の不法占拠を取り締まるとして商品を没収しようとした。

退役軍人の店主とその妻はこれを拒否して抵抗したが、城管は公務執行を妨害したとして、問答無用で店主と妻を殴りつけ、妻は気絶した。

城管の酷い仕打ちに怒り心頭に発した店主は、中国版Lineのメッセンジャーアプリ“微信(WeChat)"を通じて退役軍人仲間に応援に駆け付けるよう要請した。夜10時頃には多数の退役軍人が店に到着し、店で城管および警官と対峙していた店主に加勢した。

このころには店の周りに数千人の野次馬が集まり、城管と警官を取り囲み、日頃城管と警官が横柄な態度を取っていることに反発して店主に声援を送った。数を頼みに野次馬が城管と警官に罵声を浴びせると、遂には双方が衝突して混乱状態に陥った。

非常事態発生と判断した呉川市当局は装甲車を出動させて警備を強め、呉川市副市長が都市管理行政執法局の局長を伴って現場へ出向き、事件の真相調査を確実に行う旨を表明して、退役軍人と野次馬たちに立ち去るよう説得した。この結果、人々は副市長の話を信じるとして現場を離れ、梅録街道の治安は回復し平静を取り戻した。

呉川市の人口は約93万人であり、梅録街道の人口は約14万人に過ぎない。しかし、そんな片田舎の小さな街道でも、退役軍人に事件が起これば、携帯電話のメッセンジャーアプリを通じた呼びかけに応じて、退役軍人仲間が直ちに救援に駆け付けるのである。

 

5700万人の目の上のたんこぶ

この退役軍人たちの仲間意識と強い連帯感は、上述した「2018年中国退役軍人鎮江市集団権利要求事件」で立証されているが、中国共産党と中国政府にとって5700万人に上る退役軍人は目の上のたんこぶと言える存在なのである。

彼らがその処遇に対する不満を爆発させて団結して動けば、国家の安泰を揺るがしかねない。

全国の地方政府は常に退役軍人の動向を監視し、八一建軍節に北京入りして待遇改善の抗議活動に参加しようとする活動家を地元の鉄道駅で足止めしたり、北京へ人員を派遣して監視の目を逃れて北京の鉄道駅へ到着した活動家を捕えて送り返している。

中国では各地で群体性事件と呼ばれる集団抗議行動が頻発しているが、中国政府が最も警戒しているのは、5700万人もの規模をもつ退役軍人が連帯して引き起こす反政府行動なのである。

中国のことわざに“養兵千日, 用兵一時(平生から長い時間かけて兵備をととのえておくのは,一朝事ある時の用意のためである)”と言うが、退役軍人を軽んじて、その待遇を満足するものにしないと、一朝事ある時に、彼らは反旗を翻しかねない。

それを防止するためには、退役軍人事務部を通じて退役軍人の待遇改善と不満解消に全力を挙げなければならない。200万人と世界最大の兵力を誇る中国であるが、今後ますます増大する退役軍人の存在は、中国共産党と中国政府にとって避けて通れない頭痛の種なのである。