中国共産党政府にのしかかる「退役軍人5700万人」の圧力

鎮江、呉川、衝突はこうして広がった
北村 豊 プロフィール

数日で数万人動員、鎮江事件

江蘇省鎮江市では、6月19日に退役将校100人程が待遇改善を要求して鎮江市政府前で抗議活動を行った。彼らは鎮江市長に面談を要求したが果たせず、その夜は市政府庁舎前で座り込みを行っていたが、深夜に突然現れた制服を着ていない身元不明な“黒社会(暴力団)”とおぼしき一団に襲撃された。

襲撃側と不意を突かれた退役将校側との間で激しい攻防が繰り広げられたが、多勢に無勢で退役将校側は多数の負傷者を出して収束した。

すると、襲撃側は何と市庁舎内へ撤収したのである。これを目撃した退役将校側は市長に面談を強く要望したが、地元の公安当局や住民委員会によって阻止された。

これに怒った退役将校側が携帯電話のメッセンジャーアプリを通じて『鎮江の退役軍人が殴られた。中央政府の退役軍人事務部はもはや知らんふりはできない』と題する通知を全国の退役軍人に発信し、「皆で鎮江市へ集結して抗議活動を展開し、退役軍人の合法的権利を守ろう」と檄を飛ばした。

 

数日のうちに全国各地から退役軍人が続々と鎮江市へ到着し、最終的には数万人の退役軍人が鎮江市へ集結した。彼らは隊列を組んで市内を行進して、鎮江市政府の退役軍人に対する不当な扱いに抗議した。

彼らは鎮江市に滞在して抗議活動を展開していたが、6月23日早朝に2000~3000人の退役軍人が宿営している場所に、鎮江市政府と公安系統が動員した9000人以上の機動隊や警官などが武装して襲い掛かり、退役軍人側に重傷者200人以上、軽傷者300人以上を出した。

このうちには退役軍人の家族や女性も含まれていた。その他の退役軍人は鎮江市内に分散して宿営していたが、彼らも公安系統の警官などによって包囲されていたため、襲撃された人々を救援に行くことが出来なかったという。

上述した襲撃が行われた直後から、鎮江市内では電話もネットも遮断されたため、退役軍人側は鎮江市内の連絡が取れなくなり、外部の退役軍人に対する救援要請もできなくなった。

一方、事件を聞いて鎮江市へ急行しようとした退役軍人は鉄道駅で国内安全保衛部(略称:国安)と警察によって乗車を阻止された。鎮江市内では高速道路も封鎖され、退役軍人たちは身動き取れない状態に置かれ、人々は解散を命じられて鎮江市から退去した。

後に「2018年中国退役軍人鎮江市集団権利要求事件」と呼ばれた、鎮江市における退役軍人の抗議行動はこうして鎮圧されたが、数万人もの退役軍人が呼びかけに応じて鎮江市へ急行したことは、中国政府に大きな衝撃を与えた。

2018年3月に発足したばかりの退役軍人事務部は、7月に『退役軍人保障法』と『新時代の退役軍人業務に関する意見』を起草すると発表し、8月には一部の退役軍人に対する補助金を引き上げた。