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中国共産党政府にのしかかる「退役軍人5700万人」の圧力

鎮江、呉川、衝突はこうして広がった

ピーク時の1/3に軍人削減

毎年8月1日は中国人民解放軍建軍記念日(俗称:八一建軍節)である。

1927年8月1日に、中国共産党が指導する国民革命軍の兵士2万人が、蒋介石率いる南京国民政府に抵抗して江西省の省都・南昌で武装暴動を起こした際に、中国共産党指導の武装部隊が組織されたのを記念して、1933年に制定されたのが八一建軍節である。

1949年10月1日に中国共産党指導の中華人民共和国が成立してから今日までに、中国共産党の軍隊である中国人民解放軍(以下「人民解放軍」)は11回の兵力削減を実施して来た。

国家成立当時550万人であった人民解放軍の兵力は1950年に400万人まで削減されたが、朝鮮戦争が勃発したことにより1951年12月には過去最大の627万人まで増大された。その後9回の兵力削減が行われ、2005年時点における兵力は230万人であった。

第11回目の兵力削減は、2015年9月に行われた「抗日戦争勝利70周年記念式典」の中で、中国共産党中央軍事委員会主席の習近平が30万人の兵力削減を宣言したことによって実施され、2018年における人民解放軍の現有兵力は200万人となっている。

このように過去11回の兵力削減によって、現在中国には5700万人の“退五老兵”と呼ばれる退役軍人が存在し、毎年数十万人のペースで増大し続けている。

これら退役軍人には職場を手配し、彼らが生活できるようにすることが必要だが、ここ数年来、一部の企業や組織が退役軍人の受け入れを拒否するようになり、職にあぶれたり、低収入で生活に窮した人々が、退役軍人に約束されていた待遇を求めて地方政府に抗議するようになった。

 

習近平登場とともに北京で抗議

2012年11月に習近平が中国共産党中央委員会総書記に就任してからは、各地で退役軍人による待遇改善の陳情が頻発するようになり、地方政府に対する陳情ではらちが明かないとして、北京市海淀区に所在する人民解放軍最高指導部が執務する、八一建軍節に由来する「八一大楼」へ出向いて陳情を行うようになった。

2016年10月には、迷彩服に身を固めた4000人以上の退役軍人が突然北京に出現し、八一大楼前に集結して座り込みによる陳情を名目とした抗議活動を行った。

また、2017年2月には、数百名の退役軍人が北京に集まり、北京市西城区にある中国共産党中央紀律検査委員会の門前で退役軍人の待遇改善を求める抗議活動を行った。

この2つの抗議活動は退役軍人が何の前触れもなく北京市に集結して実施されたため、中国共産党と中国政府の心肝を寒からしめた。

毎年8月1日の八一建軍節には全国各地の退役軍人が大挙して北京へ集まり、待遇改善や職の安定と生活保障を求めることが恒例となっている。

北京へ集結する退役軍人の数は、当初は数千人規模であったものが、最近では1万人規模となり、整然と八一大楼を取り囲み、待遇改善や職の安定と生活保障を求めて、数を頼んで陳情名目の抗議活動を行っている。

このように退役軍人が大挙して八一大楼へ押しかけることを“群体性事件(集団抗議行動)”と捉えた中国政府は、退役軍人による暴動発生を懸念し、対策を検討した。

この結果、2018年3月に開催された第13期全国人民代表大会(中国の国会に相当)で批准された「国務院機構改革案」に基づき、従来中国政府「民政部」と「人力資源・社会保障部」が分業で担当していた退役軍人の職業紹介と退役将校の転業手配の業務を新設された「退役軍人事務部」へ一本化し、陳情窓口として機能させることにより退役軍人に対するサービス強化と効率化向上を図ることにしたのである。

ところが、退役軍人事務部は発足したものの、退役軍人に対する待遇改善は一向になされず、各地の退役軍人は不満を抱え、依然として地元政府に対する陳情や抗議活動を行っている。