◆ 答えと解説 ◆
【問題F】
8 一敗血にまみれる
=一敗地にまみれる
「一頭地を抜く」という成句がありますが、こちらの「地」は漢文における副詞を作る助辞で、「一敗地にまみれる」の「地」とは別物です。
9 恨み骨髄に達する
=恨み骨髄に徹する
これに似たものとして怒り心頭に発するを『実例集』で扱っています。
10 後ろ足で砂をかけるように、出て行ってしまった
=後足で砂をかける
この成句で「うしろあし」を俗な言い方として認める辞書もありますが、本来は「あとあし」なので、送りがな「ろ」を取るのがいいでしょう。
『実例集』の座談会では「気が置けない」「ジンクス」「鳥肌が立つ」など、意味が変化したことば、あるいは逆の意味にとられる傾向が強まっていることばについて触れています。
「雨模様」なら傘を差して出かけるのか、用心のために傘を持って出かけるのか、がよく話題になります。
元々は後者のほう、すなわち雨が今にも降りそうな天候のことを言っていたはずが、現在は雨が降っている状態のことだと思っている人のほうが多い、という調査結果が出ているくらいです。
読者のためを思えば、天気が雨なのか曇りなのか、はっきりわかるよう文章に手を加えたほうがよい場合もあるでしょう。
最近気になるのは「号泣」です。本来はわんわん大声をあげながら泣くことで、日常それほど多くは遭遇しない泣き方だったはずです。
声をあげずに大量に涙を流すのは号泣ではない、と注記する辞書も出てきたと思ったら、数年前、目に涙を浮かべ声を詰まらせたテレビ司会者が「号泣した」と言われていました。
これはあまりに安易な使われ方だと思いますが、「号泣」の守備範囲が広がっているのは確かでしょう。
また、近年次々と新語が現れる一方、若い世代は使わないし通じないという、じきに「死語」になるおそれのあることばも増えています。
この豊かにして厄介なる日本語と日々格闘している校閲者の記録を、お楽しみいただければ幸いです。
* 読書人の雑誌『本』2018年9月号「熟練校閲者からの挑戦状」より(一部改変)