大阪をザワつかせる「樋田容疑者逃走事件」はなぜ起きたか

原因と対策を犯罪心理学者が考察する
原田 隆之 プロフィール

樋田容疑者のアセスメント

これらの要因を考慮しながら、樋田容疑者をアセスメントしてみると、少年のころからさまざまな非行に手を染めていたという情報がある。

また、今回の容疑も窃盗のほか、強盗致傷や強制性交など4つの容疑であった。しかも、これらは別の事件で受刑していた刑務所を出所して、間もなく起こしたものだという。

つまり、比較的早期から犯罪傾向が見られ、粗暴犯罪を含む多種多様の犯罪を次々と行っていることが明らかであり、リスクが大きい危険な犯罪者である可能性が高いということだ。

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ほかにも犯罪者のリスクを心理学的に査定する際には、「セントラルエイト」という要因を用いることが望ましく、それは、①過去の犯罪歴、②不良交友、③反社会的態度、④反社会的パーソナリティ、⑤職業・学業(無職であることなど)、⑥アルコール・薬物乱用、⑦家庭の問題、⑧建設的な余暇活用ができないことの8つである。

これが当てはまるほど、本人のリスクは大きいことになるが、樋田容疑者の場合、報道等でわかっていることから判断しても、ほぼすべてに当てはまると言えるだろう。

だとすると、逃走中も引ったくりにとどまらず、これまでの犯歴にあるように強盗や強制性交などの粗暴犯罪に及んでも何の不思議もない。おそらく、機会さえあれば、ためらいなくそのような犯罪に至ってしまう人物像が推測される。

 

逃走事件と聞いて、記憶に新しいのは、本年4月に松山刑務所大井造船作業場から逃走した受刑者の件である(参照「日本の刑務所が抱える『受刑者引きこもり』という深刻な問題」)。このときの受刑者と今回の容疑者では、まったくリスクの程度が違う。

松山刑務所のケースでは、これまで窃盗しか行っておらず、粗暴犯罪の前歴はなかった。

つまり、もっぱら財産犯のみの単一方向犯である。実際、23日間に及んだ逃走中も、バイク窃盗や車上荒らし等以外の犯罪は行っておらず、粗暴犯罪には至っていない。そこにはやはり深い溝があるのだ。

したがって、そのような溝を易々と越えてしまう樋田容疑者のような人物を逃がしてしまった責任はきわめて大きい。