大阪をザワつかせる「樋田容疑者逃走事件」はなぜ起きたか

原因と対策を犯罪心理学者が考察する
原田 隆之 プロフィール

多忙を極める警察官と弁護士

この事件の背景には、警察官が常態的に多忙であり、署の人手が十分でなかったという問題があるのかもしれない。特に当日はお盆休み前の日曜日で、出勤している職員が手薄だった可能性は大きい。

そもそも警察官の仕事は、その性格上労働集約的にならざるを得ず、機械やAIなどに任せることがむずかしい部分が多分にあるだろう。

多忙な弁護士も、休日でなければ接見に来ることができなかった事情があるのかもしれない。むしろ、平日も休日もなく、治安のために働いている仕事ぶりには頭が下がる思いがする。

今でも十分に多忙な警察官や弁護士に、これ以上もっと働けというのは、たしかに酷な気もする。しかし、かといって手抜きをされては、このような事件が生じてしまうし、もっと取返しのつかないことになっては困る。

 

犯罪心理学の知見を応用すると…

こうしたジレンマを埋める1つの答えは、科学的な知恵を刑事司法に携わる人々の職務に活用することだ。

犯罪者と一口に言っても、彼らは皆、一様ではない。その危険性、リスクには大きな個人差がある。どのような特徴を持っている者が、より危険でより注意を払うべきか、それはこれまでの研究データの蓄積でわかっている。

第1は、幼少期(おおむね10歳以前)から、多種多様な非行・犯罪を繰り返しているような者たちだ。

彼らは、「生涯継続型犯罪者」と呼ばれており、早期から強力な指導、教育、治療をしなければ、一生涯犯罪を繰り返す。

数としては、犯罪者のうちの数パーセントにも及ばないこの少数の人々が、世の中の犯罪の6割以上にかかわっている。

つまり、その犯罪初発年齢と犯罪の多種方向性に着目すると、簡単にスクリーニングができる。より詳細なアセスメントのためには、専門的な診断ツールを活用する必要があるが、これも数十項目の質問で判定できる。

また、当人が粗暴犯罪に関与しているかどうかも重要なポイントである。世の中の犯罪の大多数は、窃盗などの財産犯罪と交通犯罪、そして薬物犯罪だ。この3つで、犯罪発生件数の80%近くを占める。

一方、殺人、強盗、傷害、強制性交のような粗暴犯罪は、発生件数がはるかに少なく、そうした犯罪に手を染める者は、病理や問題性が深刻でリスクが大きい。

彼らは、われわれが生得的に有している脳の「暴力抑制装置」が機能していない人々であり、刑罰の効果もあまり期待できない。