あなたの「感情」が読み取られ、制御される日

心理学が「クルマの運転」をこう変える!
深川 峻太郎, ブルーバックス編集部 プロフィール

人間はどんなときに運転を「楽しい」と感じるのか

自動車メーカーが知りたいのは、怒りやイライラといったネガティブな感情だけではない。乗り心地のよい車をつくるには、どんなときに運転が「楽しい」と感じるかを知ることも重要だ。

「運転が楽しいと感じるためにとくに大事なのは、心理学でいう『行為の主体感』だということがわかってきました。つまり、自分が主体的にこの車を操っているという感覚です。これがないと、運転していても楽しくないんですね。

たとえば、アクセルやブレーキなどが自分の直感とダイレクトにつながって動かないと、その主体感が損なわれる。加速や減速のタイミングが、自分の感覚より早すぎても遅すぎても、自分が運転している感じがしないんです」

【写真】楽しい!と感じるしくみも重要な研究テーマ
「運転って楽しい!」と感じるしくみも重要な研究テーマ photo by iStock

昔の、ハンドルをぐるぐる回して開閉したウインドウがそうだったように、アナログな機械には「自分で動かしている」という実感があった。しかし、コンピュータで制御されるデジタルな機械は、スイッチを入れれば勝手に動くので、そういう「手応え」がない。

それでも、スイッチを押すとピピッと音が鳴ったり、ライトが光ったりするなどの反応があると、何となく「主体感」を持つことができる。

「自分がそれをコントロールできていると感じるのは、人間にとって本質的に『快』なんだと思います。デジタル機器の場合はその『手応え』もテクノロジーが用意しているわけですが、ユーザーがそのアシストに気づいてしまうと、主体感が高まらないことが本センターの研究からわかっています。

だから、機械がすべてやっていると気づかれないように『さりげなくアシスト』することが、大事なテーマになってくると思います。このことは自動車にかぎらず、バーチャル・リアリティの研究でも重視されています。その意味でも、これから工学の分野では心理学の出番が多くなると思いますよ」

【写真】自分が主体的にこの車を操っているという感覚も大切

「このクルマを操っているのは自分だ」という感覚が大切なのだ photo by iStock

「自動運転」なのに「主体感」を感じさせるテクノロジー

面白いのは、その「主体感」が、自動運転車でも求められることだ。ユーザーが何もしなくても目的地まで連れていってくれるのが自動運転だから、いわば「全面的アシスト」である。全然さりげなくない。だから、バスやタクシーのように主体感ゼロの「おまかせ」でいいような気がしてしまうのだが、そういうものではないらしい。

「国は2020年までに自動運転をある程度まで実用化したいと考えているので、この3~4年は自動車メーカーとのあいだで自動運転の共同研究が増えています。そこでは研究の大きな方向性が2つある。1つは、自動運転を乗り心地のよいものにすること。もう1つは、自動運転でも主体感のある車をつくることです。

バスやタクシーと違ってユーザーが購入する製品なので、メーカーとしては愛着を持ってもらうためには主体感がほしい。自分で操作はしなくても、何らかの形で自ら運転しているような感覚があったほうがいいんです。そこで大事になってくるのが、ユーザーに合わせたパーソナライズです」

【写真】車間距離やカーブの曲がり方を学習
ユーザーにとって快適な車間距離やカーブの曲がり方を自動車が学習する! photo by iStock

ドライバーには、ブレーキのタイミングや車間距離のとり方、カーブを曲がるときの角度など、それぞれ自分にとって快適な走り方がある。助手席に座ると他人の運転が危なっかしく感じたりするのも、そのためだ。バスやタクシーではそれも大して気にならないが、自動運転の運転席に座れば、たしかに「うわわ、そんなに車間を詰めるなよ」「ブレーキ遅すぎるぞ」などと文句をつけそうである。少なくとも私はそうだ。

「車載した感情センサーでユーザーの不安や恐怖感などを測定し、それを自動運転の設定にフィードバックすれば、そのユーザーにとって快適な車間距離やカーブの曲がり方などを自動車が学習するでしょう。パソコンがユーザーの多用する漢字変換を覚えていくのと同じように、乗れば乗るほど自分好みの車になっていくわけです。かつての『たまごっち』がそうだったように、自分にフィットするように育てていくことも、愛着を持つ要因になるのではないでしょうか。

また、新車に買い替えたときは、機種変更したスマホにアドレス帳などを移行するのと同じように、ユーザーのデータ履歴を移植すればいい。まだ妄想レベルの話ですが、自動運転車はそういう方向に進歩していくのかもしれません。単なる移動手段にとどまらない楽しさがないと、買ってもらえませんから」

なるほど、自動運転というテクノロジーの進歩に、心理学の果たす役割が大きいことがよくわかった。