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あなたの「感情」が読み取られ、制御される日

心理学が「クルマの運転」をこう変える!

感情──この不合理なるもの

私たちは製品やサービスを、価格や性能だけで合理的に選択するわけではない。

たとえば電化製品にしても、安くて性能が良い商品が「なんか気に入らない」と感じて、あえて高価で性能の低いものを選ぶことは誰にでもあるだろう。私なんか、どう考えてもお買い得なのに、それを勧める店員の態度が気に入らず、「絶対こいつからは買わねーぞ」と内心で毒づきながら店を出てしまうことがよくある。

感情に振り回されて不合理な判断をするのは愚かなことかもしれないが、まあ、仕方がない。それを含めて人間だもの。

さて、そういう人間を相手にしている以上、製品やサービスを提供するには「感情」への配慮が欠かせない。ユーザーにできるだけ「快」を感じてもらい、「不快」をなくしたい、と、誰でも当たり前にそう考える。だが人の心は目に見えないし、何が心地よいかは十人十色なので厄介だ。

たとえば新製品のパッケージの色を会議で決めるにしても、出席者はそれぞれ感性が違うので、どの色が多くの人の心をとらえるのかという「正解」はわからない。結局は「勘」ってやつに頼らざるを得ないのである。

前置きが長くなったが、今回はその感情の「見える化」に取り組む研究者を紹介しよう。探検隊が向かったのは、産業技術総合研究所自動車ヒューマンファクター研究センター。そこで「快感情を強め不快感情を弱める技術」を研究している木村健太さんだ。

【写真】木村健太さん
  木村健太さん

かぎりなくサイエンスに近い心理学

「私は文学部出身なので、なんで産総研で仕事を?とよく聞かれるんですよ。たしかに、ここでは珍しいんですよね、文学部の心理学科出身者なんて」

開口一番にそうおっしゃるぐらいだから、心理学科の多くが大学の文学部にあることを知らない人も多いのだろう。たとえ知っていても、文学部の心理学とは人間の怒りや悲しみなどをブンガク的に語るところだと勘違いしている人もいそうである。

しかし、実験によって得たデータに基づいて人間を研究する心理学は、文学部の中でもいちばん理系っぽい分野だ。

「心理は物理量に落とし込めないので、どこまでやっても人文社会科学系の学問なんだろうとは思いますが、アプローチはかぎりなくサイエンスに近づけようとしています。

私自身は、脳波、心拍、ホルモン、血圧などの生理的な指標を計測し、怒りや喜びといった感情を定量的に評価することで『見える化』する研究をやってきました。物を使うのは人間ですから、心理まで含めた技術を考えるのが、工学だと思っています。

以前は産総研身体適応支援工学グループという部署でそれをやっていましたが、『その研究、自動車に使えるんじゃないの?』という話になって、4年ほど前にいまの研究センターに来ました」