日本人の平均身長は、西郷どんの時代に一番縮んでたって知ってた?

酒席で絶対ウケるおもしろ雑学 牛編
齋藤 海仁 プロフィール

ウシ1頭で、1日18人が養える!

「野生のウシのなかま」というコーナーに野牛の写真が並んでいた。また、『ウシの動物学』(遠藤秀紀著)によれば、その上の分類である「ウシ科」にはウシも含めて120種がいる。このなかで大々的に家畜化されたのはもちろんオーロックス、ウシだけだ。

 

理由は二つあるという。

ひとつはオーロックスという生きものが家畜に向いていたこと。もうひとつはウシが人間にとってそれだけ有益だからである。

現在までに家畜化に成功した大型の哺乳類は世界でも14種類しかいない。これは肉食が主ではない大型哺乳類の1割以下だ。特に世界中で飼われているものとなると、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギの5種類だけ(ニワトリはもちろん鳥類)。つまり、家畜化はそれほど簡単ではないわけだ。

ある動物を家畜にするための一番大事な条件は、繁殖をコントロールできることである。じゃないとずっと飼い続けるのは無理。だって、家畜の数が減ったからといって、そうそう都合よく野生のものを捕まえて補充できるとは限らないし、繁殖が管理できなければ品種改良もできない。世界最速の動物であるチーターの家畜化が過去ことごとく失敗に終わったのは繁殖しなかったからである。

それに性格も重要だ。

たとえ飼育下で繁殖するとしても、気性が荒かったり、あまりに人の指示を聞かなかったりすると、家畜にするのは難しい。そのいい例がシマウマ。見た目は、その名前のとおりウマだが、家畜化されたという話は聞いたことがない。

ジャレド・ダイアモンドの名著『銃・病原菌・鉄』(草思社文庫)には「シマウマにはいったん人に噛みついたら絶対に離さないという不快な習性があり、毎年シマウマに噛みつかれて怪我をする動物監視員は、トラに噛みつかれる者よりもずっと多い」とある。さすがにこれではツライ。大型動物で気性が荒ければ、人が死ぬこともあるだろう。

加えて、利用価値の面でもウシは優等生だった。

現在の家畜のトップ5であるヒツジ・ヤギ・ブタ・ウシ・ウマ(家畜化が古い順)のうち、ウシとウマには他にない大きな役割があった。である。

トラックやトラクターが現れる前の社会では、牛の博物館に様々な「世界の犂」が並んでいるように、役用家畜が極めて重要だった。

そもそも人間が文明を築けたのは、西アジアで発明された犂(すき)が農業の生産性を飛躍的に高め、安定した生活を送れるようになったおかげである。人類が文明を築いた原因にしばしば農耕の始まりが挙げられる。けれど、実際のところ、文明を築けるほどの生産性を手に入れるためには役用家畜の登場を待たなければならなかった。

犂が発明され、牛を農耕に使えるようになり、農業生産量は一気に上がった

人間が農作業に利用した最初の家畜はウシだ。すなわち、ウシがいなければ文明は誕生しなかった! というのは大げさでも、もしウシがいなければ文明の発展は500年は遅れていたと言われている(どういう計算なのかイマイチわからんけど)。500年前というと、日本は室町時代。西洋はルネサンスに大航海時代。コロンブスがアメリカ大陸を発見した頃に戻るってことですね。

じゃあ、ウマはどうなのか。役用だけに注目してみると、ウシでもウマでもどっちでもいいように思えるかもしれない。だが、家畜としてのウマは、ウシに絶対に敵わない。なぜか。ラストはこの話でシメよう。

結論から言うと、ウマがウシに適わない理由は乳にある。

牛乳には、200ミリリットルあたり130~140キロカロリーとごはん1杯弱のカロリーがある。おまけに、たんぱく質のバランスが極めてよかったり、カルシウムが吸収されやすい形でたくさん含まれているなど、栄養面ですぐれている。カルシウムをたっぷり含んだ牛乳の普及は、日本人の身長を伸ばすのにも大きく貢献したことだろう。

これらに加えて、なんと言っても圧倒的なのはその量だ。

ホルスタインの年間乳量は8000から2万リットルにも及ぶ。年間2万リットルといったら、単純計算で1日約55リットルだ。ガソリンなら毎日満タンだ。カロリーで言ったら約3万7000キロカロリー。成人男子が1日に必要なカロリーが2000前後だから、ホルスタイン1頭で18人ほど養える計算になる。この量は他の家畜と比べものにならない。

戦前は貴重品だった牛乳。戦後、日本人の身長が一気に伸びたのは、安価で手に入るようになった牛乳のおかげかもしれない

しかも、肉は食べたらそこで終わりだけれど、牛乳は授乳期の数年間は出し続けてくれる。乳牛をとすれば牛乳は利息。人類にとってウシはいろんな意味で“おいしい”家畜だったのだ。

牛の博物館
〒029-4205岩手県奥州市前沢字南陣場103-1
電話:0197-56-7666 Fax:0197-56-6264
 
牛の博物館他、貨幣博物館(東京都中央区)、駿河湾深海生物館、博物館 網走監獄など10館を収録。
 
 
ピュリッツァー賞受賞作。識者が選ぶ朝日新聞“ゼロ年代の50冊”(2000年から2009年の10年間に出版された本)堂々の第1位に選ばれた名著中の名著